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第15話 「鼓動」*彰

「……彰って、いつも、あの人と居んの?」 「え?」  和己が風呂に入りにいった瞬間。  寝てたと思ってた仁に、急に言われた。 「起きてたの?」 「ちょっと前に起きた……」  道場に行ってきて、シャワーを浴びてきた仁が、疲れた、と言ってベッドに転がって一時間。和己がオレにまとわりついてしゃべってる時も、ずっと静かだったから、寝てるんだと思っていた。 「……今なんて?」 「――――……元、生徒会長。いつもあいつと居んの?」 「……居る事は多いけど……別にいつも二人で居る訳じゃないけど」 「……ふーん……」  何の質問なんだ……。  思いながらも、今の今まで勉強してた教科書に再び視線を落とすと。  急に、後ろから回ってきた腕に、ぎゅ、と抱き締められてしまった。 「……彰」  腕が、オレを全部包み込むみたいに、ぎゅ、と抱き締められて。  はあ、と、息をついた。  仁、でっかい、なー……。  いつのまにこんなに……でかくなったんだろ。  なのに中身は、にいに大好きって、言ってた時のまんまって……。 「……仁を好きな女の子ってさ」 「――――……?」 「いっぱい居るだろ」 「――――……さあ。知らね」 「……お前いつも女子に囲まれてるじゃん」 「何それ。ヤキモチ?」 「……違うし。事実だし」 「ヤキモチなら、もう女子とはしゃべんないけど」 「――――……そうじゃなくて……」 「なくて、何?」 「……何でオレに、こーいうこと、すんの?」 「――――……」  ムッとした、仁が、視線をきつくする。 「……彰、手、貸して」 「? 手?」  抱き締めてた腕を解くと、オレの手を持って。椅子をくる、と回転させて、真正面から向き合うと。  手のひらを、仁の左胸に押し付けられた。 「……すっげえ、ドキドキしてんの、分かる?」 「――――……っ」  ――――…… 鼓動、早い。認識した瞬間。  なんでだか分からない。  カッと頬が熱くなった。  手を退こうとしたけど、そのまま抱き締められた。 「――――……聞こえるだろ、音」 「――――……っ」  胸に頭を押し付けられて、動けない。 「勝手にこうなる。……女子と付き合っても、こうならない。なんで彰かとか聞かれてもわかんない」 「……仁、離して」 「……嫌だ」  聞くんじゃなかった。  ――――……聞かなきゃよかった。  もうほんと――――…… 無理。 「……彰……」 「――――……っ」  キスされる。 「彰……好きだ」  すりこまれるみたいに、囁かれて。  ――――……抱きしめられて。 キスされて。  もう、ほんとに、頭、おかしくなりそうで。    瞬間。とんとん、と小走りで階段を上ってくる足音。 「っ……仁っ」  どん、と、その胸を、押した。  少し離れた瞬間、ドアが、開いた。 「あれ。仁兄、起きたの?」 「ああ――――……夕飯、食ってくる」  仁は、和己の横をすっと通り過ぎて、下に降りていった。 「……機嫌悪いなー……あき兄、もしかして、喧嘩した?」 「してないよ。大丈夫」  和己の頭を撫でて、そう言いながら。  動揺で、指が、震える。  なんで、弟と、するキスで、こんな風に、なんなきゃいけないんだ。  もう、無理。  もう、ほんとに ――――…… 無理。  仁が、ほんとに、オレへの執着が切れないなら。  ――――…… オレが、無理にでも、切るしかない、のか。  でもそれだと――――…… 兄弟としても、切れてしまう気がする。  ……どうすべき、なんだろう。  何で、こんな風に、なっちゃったんだろ。

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