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第16話「決意」*彰

 翌日の学校。中休み。    立ち上がる気力もなく、机に伏せていたら。  目の前の席に、誰か座る気配。 「彰」 「――――……寛人……」 「……やばそうだな、お前。……昨日進展した?」 「……してない。……オレにしかドキドキしない、とか言われた……」 「――……あ、そ」  寛人は、苦笑い。 「どうしたらいいかわかんない……」 「――――……拒否る。しか無くねえ……?」  言われて。考えるけど。 「……拒否ってるよ、オレ」 「いや、本気で拒否ってねえだろ」 「応えられないって、何回も言ってる」 「――――……でも、キスさせちまってんだろ?」 「……させてるんじゃないし」 「で、彼女とも、別れちまったし」 「――――……」 「……仁の立場だったら、期待するよな」 「……期待?……」 「このまま押し切れば、お前が自分のものになるかも、て」 「――――……仁てさ」 「ん?」 「……オレに何、求めてんのかな」 「……恋人、じゃねえの?」 「…………いや、無理でしょ……」 「……お前の態度、無理って態度じゃなくねえか?」 「……いや、無理だよ」 「……気持ち悪い、二度と触んな、そう言った?」 「――――……気持ち悪くはないし……」 「それだよ、それ。 やっぱり、期待するって」 「――――……だって。別に気持ち悪くはないんだよ」 「………断固として、拒否するしか、ないんだよ。ずるずるしてる内に、あいつが諦めるとか期待してるなら……無いと思うけどな」 「何で、寛人は、そんなに、仁のこと、分かんだよ?」 「全部分かってる訳じゃねえぞ? しゃべった訳じゃねえし。  でも、あの視線が全部、やっぱりそういう意味だったんだと思えば……」  やれやれ。と寛人がため息をついた。 「――――……何かオレさ……もう、どうしていいか分かんなくて」 「………まあ……そうだよな。オレが弟にんな事言われても……」 「言われたらどーする?」 「――――……あー。いや。叩きのめすかな」  しばらくして出て来た言葉に、嫌そうに寛人を見てしまう。 「無理だよ、無理……」 「何で無理なんだよ? ――――……世の中の99パーの兄貴は、弟に迫られたらそーすると思うけど」 「――――……」 「だから、そうじゃない彰には、受け入れたいならそーしろって、オレは言ってる訳」  机に突っ伏したオレの頭を、ぐしゃぐしゃと乱しながら。  寛人が、そう言う。 「……どっちも、できない。」 「だから……――――……」  不自然な、間。  …………。 「寛人……?」  顔を上げて、寛人のなんとも言えない顔を見て、そのまま、いつの間にかすぐ横に立ってる奴に気付いて、見上げて――――……。 「……仁?」  珍しすぎる。  オレのクラスに、仁が立ってるって。 「彰、悪い。 英語の辞書借りて良い? 忘れた」 「……あ、辞書?……――――……うん。今日はもう使わないから」  なんだか焦る。机から辞書を出して、仁に渡した。 「いつも使ってるのと同じのが良かったから――――……ありがと」  それだけ言って、教室を出ていった。  びっくりした。  ――――……仁が、オレの教室に来るとか、すごく久しぶり。  高校生になってからは、初めてかな……。  変にドキドキしたまま、ふ、と息をつくと。  寛人が、嫌そうに。 「……悪い、彰。絶対お前の頭ぐしゃぐしゃしてんの見られた」  そんな風に言う。 「――――……別に。そんなの平気だと思うけど」 「平気じゃねえって……はー失敗……」  寛人がため息をついて、そんな風に言ってる。 「……にしても。久しぶりに近くで見たな。あんな顔してたっけ」 「――――……あんなって?」 「イイ顔してんのは知ってたけど。もっと子供っぽい顔してたよな」 「……今も子供っぽいときは、子供っぽいよ」 「だいぶ男っぽくなったな。 つか、何であれで、兄貴に行くんだ? ほんとモテるだろうにな」 「……仁に聞いて」 「……多分聞いても理解できないな……」 「だよな……」  その時。中休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。 「ありがと、寛人…… とりあえず今日……話せたら話す」 「……おう。 頑張れ」 「……うん」  その日。  授業がちっとも頭に入らないまま、考えていた。  キスは拒否する。  応えられないって、ちゃんと、言う。  オレ以外の人にしろって、ちゃんと話す。  それしかない。  どう考えたって――――……受け入れる事は、無理なんだから。  仁に、伝える事を整理して、そう決めた。  ちゃんと伝えて、分かってもらわないと。  ……なんかもう、兄弟でも、居られなくなりそうで。  長いこと、ずっと一緒に居た時間も。足元から崩れそうで、  怖かった。

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