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第17話「覚悟」*彰

 どうしよう。いつ話そう。 夕方からずっと、和己が居る。  仁はさっき道場から帰ってきて、風呂中。いつもだと、そのまま夕飯を食べに行く。そしたらこのまま遊び終えて、もう和己も寝ちゃうし、この部屋で仁とは話せないかな……。 「……」  一応勉強はしてるのだけれど。全然集中できない。 「――――ねーねー……あき兄?」 「え? どした?」 「なんで今日、そんなチラチラ見んの?」 「……見てる?」 「うん、見てる。……ゲームの音、うるさい?」 「全然大丈夫。気にしなくていいよ」 「んー……オレ、二十一時まで、下でゲームしてくる。ごめんね、あき兄」     可愛い弟は。  何かを察知したのか、ゲーム一式を持って、さっさと階下に降りていった。  何て……話そう。  仁と……これからも、兄弟で居たいって、どう伝えるのが良いんだろ。  正直今日はもう無理かと思って、逆にすこしホッとしていたせいで。  急に、ドキドキしてきた。  どうしよう。  思ったその瞬間。  ドアが開いて、仁が入ってきた。 「あれ……和己は?」 「下で、ゲームするって」 「なんで? 珍しい」 「……オレの勉強の、邪魔になるって思ったみたい」 「ますます珍しいけど」  髪の毛の雫を拭き取りながら、仁が、少し笑った。 「仁、夕飯は?」 「今から食ってくる」 「……ん」 「そうだ、彰」  仁が部屋の中に入ってきて、自分の机に置いてある鞄から辞書を取った。 「辞書、ありがと。助かった」 「あ、うん」  机に置かれた辞書を手に取って、頷く。 「……彰って、やっぱりいつもあいつと居るんだな」 「……」 「……頭撫でられたりして、いっつもあんな?」 「……」  寛人の言ってたことが、脳裏によみがえる。  あー……これ、大丈夫じゃなかったのか……。   寛人はすごいな……ていうか。……オレが、鈍いのか。  ……オレが何にも、分かってなかったから……。  こんな事になっちゃったのかな……。 「いつもじゃないよ……今日はたまたま……」 「……ふーん」  少し、何か言いたげではあるけれど、何も言わない仁。  今しか、話せない。 和己が戻る前に。  覚悟を決めて、彰は、くる、と振り返って、仁をまっすぐに見つめた。 「……仁、ごはん前に悪いんだけどさ。和己が居ない間に話して、いい?」 「……何?」 「……お前が言ってること……なんだけど」 「……彰が好きって?」  突き刺さるみたいな、視線。 「……うん。それ、なんだけど……考えたんだけど……」 「……」 「……オレ……仁の事は……弟、としか、見れないから」 「……」 「だから……諦めて、くれないかな……。オレ……普通の兄弟で居たい」  そう言って、仁の答えを待つ。  数秒して。 「……嘘」 「え?」 「彰がオレを、弟だとしか思ってないなんて、嘘だろ」 「……嘘じゃない……」  何、嘘って。  ……嘘なんかじゃ、ないし。  仁が、近づいてこようとするので、がたんと椅子から立ち上がった。 「……今日は、触んないで。……オレ、ちゃんと、話したいから」 「……」  苛ついたみたいな仁の顔。  ……ダメかも。話せないかも。 「……落ち着いて話せないなら……また今度にする」  この部屋を出てしまおうと思って、ドアに向かうけれど。  ドアを開ける手前で、仁に腕を掴まれた。 「っ」 「……逃げんなよ」  ドアに、背を、押し付けられた。

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