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第22話「頭から離れない」

 オレと亮也のマンションは、徒歩で二十分。  その途中のファミレスで夕飯を食べて、今夜は別れた。   一人、マンションまで歩きながら、ふ、と、ため息をついた。  仁の夢。  仁が出てきて、何か、言ってる、夢。  でも、何を言ってるかは、聞こえない。  ……夢は、久しぶりに、見た。  起きてる間は、いつも、仁の事を、思う。  元気にしてるかなとか。  何、してるかな、何考えてるのかな、とか。  ……どうしてこんなに、頭から離れないのか。  高校生になってしばらくして、仁がおかしな事を言い出した。  好きだ。 彰しか好きになれない。  本気で、彰が、好きだ。  突然、堰を切ったように仁から溢れだした、そんな言葉たち。  思春期でおかしくなったのかと、余裕を持って様子を見てあげられたのは最初だけだった。  まっすぐに見つめてくる瞳も。掴んでくる手と、キスの熱さも。  言葉以上に、その気持ちを伝えてきて。  ――――……それが、もう、どんどんきつくなって。  いくら、血がつながってないとは言っても。  オレが五才、仁が三才のときに両親が再婚して、和己が生まれて。  ずっと、家族五人。三人兄弟として暮らしてきた。  オレが、仁のものになんて、なれる訳、ない。  だから、応えられない、諦めてと伝えたあの日。  最後に、「彰しか好きになれない」と言われて。  もう、離れるしかないと思った。  仁が、オレには何も言わなくなったのを救いに。  受験勉強をひたすら頑張って、成績を上げた。  地元を離れて、東京の大学を選ぶために。  受験校を決める時に、一人暮らしを両親に頼み込んだ。  合格が分かって、一人暮らしが決まってから、それを仁と和己にも伝えた。 「……オレから、逃げるってこと?」  仁の言葉と、哀しそうな瞳が、忘れられない。   オレは、違うと、伝えた。   ただ、その大学に行きたいからだ、と。そう伝えた。  まだ高校二年になるところで、仁が追いかけて来れる筈もなかった。追いかけたいと思ったかどうかも、今となっては、もう分からないけれど。  きっと、物理的に離れたら、色んな誤った思いも、消えるはずと信じて。    仁の、その質問の意味には触れずに。  ――――……ちゃんと答えずに、別れてきた。  ちゃんとしないで――――…… 別れてきたから。  こんなに、ずっとずっと、気になるんだろうか。  多分もう、オレの事なんて、綺麗に忘れてるだろうと、思うのに。  何で、オレが、忘れられないのか。  バカみたいだ。  何のために、あんなひどい離れ方で。 仁の前から消えたのか。  こんなはずじゃなかったのに。

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