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第23話「罪悪感」
あれからもうすぐ二年。一度も家には帰っていない。
仁からの連絡は一度も無かった。
父さん、母さんと和己からは、結構頻繁に連絡が来るので、仁がどうしてるかは、知ることができた。
仁は、オレが居なくなっても、特に問題ないみたいだった。
それどころか、できすぎな位に、色々頑張っていたらしい。
剣道の大会で優勝した。成績は抜群。生徒会長にもなった。
そんな話を家族から聞くたびに、離れて良かったんだと、思った。
もしかしたら、一緒に住んでいても、仁は大丈夫だったかもしれないけど。
――――……あの時は、離れることしか、考えられなかった。
仁が第一志望に合格した、と、こないだ母さんから連絡があった。
どこに受かったのか聞いたけど、返事がないまま。
返事を忘れてるに違いない。まあ母さんには、わりとよくあることだけど。
―――……やっぱり仁のあれは、思春期が引き起こした、謎の勘違いで、
もう、オレのことなんて忘れてるだろうは思うのだけど。
それでも、顔を見るのが、怖くて、帰れなかった。
こっちに出てきて、大学で知り合って、何だか妙にウマがあった亮也に、何度も迫られて誘われて。……試しに寝てみた。
――――……結果、男同士でも、普通にそういうことが出来るのは、分かった。
女の子を抱けるのは、もともと分かってた。 男は、抱けないけど、抱かれることなら出来るってことを知った。
そこまでの抵抗も、なかった。
女とする時と、男とする時。
攻める側になるか、受ける側になるか。
役目は違えど、することと言ったら、大して変わらない。
ただ、相手に触れて、快感を高めあうだけ。
――――……どちらの方が好きということもなかった。
どちらにしても、快感が過ぎた後に襲ってくるのは、
どうしようもない罪悪感。
罪悪感の度合いで言ったら、どっちも一緒で。
亮也に抱かれた後の方が、少し罪悪感は強いかも知れない。
――――……ここで、罪悪感なんて言葉が出てくること自体。
おかしいのは、自分でも、分かっているのだけれど。
別にその行為自体がいけないなんて思わない。
男への抵抗がそこまでなかった時点で、
もともとそういう性癖だったのかも、と思った。
気が乗れば、女の子は別に誰でも良かったけれど、男は今の所、亮也だけ。
他の男を見ても、そんな気には一切ならないし、そもそも男を抱く方になるのは無理そうなので自分から誘うこともない。
女の子とちょくちょく噂のあるオレに、声をかけてくる男は亮也以外は居なかった。
マンションについて、自分の部屋の鍵を開ける。
「――――……はー……」
中に入ると同時に、無意識にため息。
久しぶりに、何も言わない仁の夢を見てしまって、もう、気分が滅入ってどうしようもない。
「――――……」
起きてる時に、仁はどうしてるかな、と、思い出してしまうのは、
もう、いつものことなので、諦めているけれど。
夢に出てきたのは、久しぶりだった。
しかも、亮也と寝た後に。
亮也のベッドで。
――――……ほんと……最悪……。
そのまま、バスルームに入って、シャワーを浴びる。
「……またつけたな、亮也……」
首や胸元に、赤い痕。
明日は塾のバイトがあるから、絶対つけんなって、言ったのに……。
――――……シャツのボタン、上までしめとけば、見えないかな……。
まあ別に、キスマーク1個くらいで、相手が男だなんて思う奴はいないだろうし、良いのだけれど……。
でも、中学生を刺激するわけにもいかないしな。
バスルームから出て、髪を拭きながら、キッチンで水を飲む。
ぴこん、とスマホが音を立てた。亮也からだった。
「彰、家ついた?」
「うん。ついた。シャワー浴びたとこ」
「ごめん、またつけたかも、キスマーク」
「……ついてた」
「可愛くてついつけちゃうんだよねー。白くて目立つから」
「バカ」
何度かやりとりしていると、アホなメッセージに苦笑い。
亮也はバイ。女も男も、同じように愛せると言ってた。
付き合おうかとか、そんな話をされたこともあったけど、断った。
断ったのに、じゃあそれでもいいから、このままお前の近くに居たいんだけど、と言われて。――――……お互いが、したい時に、触れ合う関係になった。
亮也はちょっと軽いけど、良い奴。イケメンで清潔感もあるし、優しいから、最初から、嫌悪感とかそういうのも、無かった。
だからなのか、緩い感じで、なんとなく、続いてる。
「今度から、絶対見えないとこで」
そう入れたら、了解、という言葉と共に、ハートマークが飛んできた。
あほか、亮也……。
思った瞬間、また、ぴこん、と、受信音。
今度は、和己からだった。
「あき兄、元気?」
「うん。元気だよ。どした?」
少し間があって。
「その感じだとまだだね」
「まだって何が?」
聞いたけど、既読がついたまま、返事がない。
……なんだろ。
――――……コーヒー飲みたいな……。入れよ。
返事の来ないスマホをテーブルに置いて、キッチンに立つ。
まずお湯を沸かしてから、コーヒー豆とミル、ドリッパーとサーバーを用意して、カウンターに置いた瞬間。
ぴこん、とまたスマホが鳴った。 和己かなと、おもって、スマホを取りに行きかけた時。
ぴんぽーーん。
今度は、チャイムが鳴り響いた。
インターホンで はい、と返したけれど、答えない。
亮也なら急に訪ねてくるけど、さっき別れたばかりだし。
誰だろ――――……。
手を伸ばして、鍵に触れた。
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