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第25話「やり直す」

 リビングに入ってきた仁は、部屋を軽く見渡した。 「部屋、キレイだね」 「……そんなに、物無いし。……座れば?」 「ん」  言われるまま、リビングテーブルの椅子に仁が腰かけた。  本当に、現実なのか、まだ悩む。  ――――……二年間、声すら、聞かなかった、相手。  あんなままに、別れてきて。  ――――……そして、今ここに居る仁は、  あの頃の仁とは、別人みたいだった。 「――――……」  コーヒーを淹れ終える。 「砂糖とか入れる?」 「ブラックがいい」  ……ブラックなんて、飲んでたっけ。  思いながら、テーブルに、コーヒーを置いた。 「ありがと」  そう言って、仁がコーヒーを一口飲んだ。  テーブルをはさんで、斜めに腰かけて、オレもコーヒーを啜る。 「――――……」  コーヒーを飲んで、なんだかすごく不思議な顔をしてる仁に気付く。 「苦い? 何か入れる?」 「……いい匂い、これ。 すげえうまいし」 「――――……」  あ、美味しくて、そんな驚いたみたいな不思議そうな顔、したのか。  なんだか、嬉しくて、ふ、と微笑んでしまう。 「一人暮らししてから、ちゃんと入れるようになったんだ」 「――――……ほんとに、うまいよ」 「……ありがと」  うん。自分でも、割と美味しいと思うけど。  この豆も、やっと好みの見つけたし。  コーヒーを褒められて、少し和んだオレの表情に、仁はふ、と瞳を細めた。 「――――……彰、オレね」 「……」  何を言われるのか、緊張して。  ――――……仁を、まっすぐ見つめる。 「……オレ、学びたいこととか、自分の学力とかで、目標にしたのが同じ大学だった。それだけだから」 「――――……」  それだけ。――――……他意はない、てことを、言いたいんだよな。きっと。  まっすぐな凛とした瞳に、ん、と頷いた。   「……で、先に話したいのが――――……二年前のこと、なんだけど」 「――――……」  いきなり、核心に触れた仁。  あの頃なら、聞きたくなくて、うろたえたと思うけれど。  落ち着いた声。  落ち着いた、話し方。  ……仁じゃないみたい。少なくとも、二年前の仁とは、全然違うように見える。だから、落ち着いて、その話を聞こうと思えた。 「……あの時は、本当に、ごめん」 「――――……」 「なんかオレ――――…… 彰を好きだって思い込んでて。 ……彰が、抵抗しないでくれてるのをさ…… 彰もオレのこと好きなんじゃないかとか、思い切り勘違いして……勢いで色んなことして、言っちゃって――――……」 「――――……」  「思い込んでて」「勢いで」「勘違い」  仁が並べる言葉で、オレに伝えたい意図は、嫌というほど、伝わってきた。  仁は、今、あの時のことを、  全力で、すべて、否定したいんだ。  なかったことにする訳じゃなくて、  あの時のことは、全部「思い込んで」「勘違い」で、「勢いだった」と、そう言いたいんだ。

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