26 / 136
第26話◇
「――――……」
ますます、知らない男に見える仁を、ただ、まっすぐに見つめた。
「ごめん。とりあえず、最後まで話聞いてくれる? 聞きたいことあれば、あとで全部答えるから」
言われて、頷いた。
「――――……オレさ、彰と離れて割とすぐ落ち着いたんだ。自分がどれだけバカだったかも分かったし。でもきっと、そんなすぐに連絡して謝っても信じてくれないだろうし。オレは、ちゃんと自分のこと頑張って、できること全部ちゃんとしようって決めてさ……だから謝るのも、遅くなっちゃったけど――――……遅くなったのは……時間が経ってからの方がいいと、思ったから、だから……」
「――――……」
「……あの時、あんなこと無理矢理して、辛い思いさせて、ごめん」
まっすぐ、見つめられて。
ただ、ぼんやり見つめ返す。
――――……ほんと。
変わったな……。
背も高くなって。 体つきも、男っぽい。
声は、聞き慣れたものではあるけれど、少し低い気もする。
弟っぽい、可愛かった仁は、もう欠片も残ってないように見える。
あの時のことを、こんなに、冷静に話して、謝ってる。
――――……なんか、知らない奴、みたいだな……。
「……彰が、許してくれるなら、オレ――――……もう一度、彰と、やり直したい」
「――――……」
「……許してくれるなら、一緒に、ここで暮らしたい」
「――――……」
「……でも、オレ達が連絡とってないこと、父さんたち知ってるから、別で暮らしてもいいとは言ってくれた。お互いが望まないなら、それ位は出してくれるって言ってくれたから。だから、断ってもいいよ。でも……オレは――――……彰と暮らしたい」
「……仁……」
「……前みたいなこと、絶対しないし、言わない。そもそも、オレ、あんなことがしたかったわけじゃ、無かったし」
「――――……後悔してた?」
「……してたよ。ずっと。 だから、次に彰に会った時に、ちゃんと謝って、ちゃんとしないとって、すごい思ってた」
「――――……」
どの言葉も。
真剣で。
――――……本当に、関係をやり直したいんだって、思った。
その言葉を、ここで、オレが、切ることなんかできるわけがない。
「……オレも―――……ちゃんと、対応……できなくて…… 悪かったと思ってた」
「……彰が謝ることは、ひとつもないよ」
「――――……二年間…… 連絡しなくて、ごめん」
「だから――――……謝ること、ひとつもないから」
「……分かった。もう二年前のことは、忘れる。ここに住んで、いいよ」
「……いいの?」
「仁は、本当にそれでいいんだよな?」
「――――……ありがと、彰」
詰めていた息を、ほっとしたようにはいて。
仁が、笑んだ。
笑うと、少しだけ、前の仁がそこに居た。
――――……オレも、なんだかホッとして。微笑んだ。
ともだちにシェアしよう!