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第28話「もう意識しない」

 遠くで何か音楽が流れてる。  ……あれ――――……電話……?  気付いたら、ダイニングテーブルに伏せてて。  目の前に置いたスマホが、鳴っていた。  とっさに通話ボタンを押して、耳にあてる。 「はい――――……もしもし……」  声が、ちゃんと出てない。 『……彰? 寝てたか?』 「――――……あ、寛人?」  あれ――――……仁は……?  シャワー浴びに行って……まだ出てきてない……?  目を擦りつつ、見回したら、仁がソファに座って水を飲んでた。 「あ……寛人、ごめん――――……十分位したら、掛け直してもいい?」 『あぁ。オレもう家帰ったから。いつでもいいよ』 「うん」  そこで電話をいったん切った。 「仁、ごめん。オレ寝てたね。 いつ出てきた?」 「ついさっき。水飲んでから起こそうと思ってたとこ」 「じゃあすこしか、寝てたの……」  背筋を伸ばしながら立ち上がって、仁を振り返る。 「仁、ドライヤーあるとこ、教えるから、来て」 「ん」  ……なんかすごくだるいなー……。  仁が後からついてきたのを確認して、洗面台の引き出しに入ってるドライヤーを渡した。 「ここに入ってるから」 「ん。ありがと」  狭い洗面所で。  ドアのとこに立ってドライヤーを受け取った仁。  間近で立つと、余計に身長差、体格差があることに気付く。 「なんか――――……仁、すっごいでかくなった?」 「うん。まあ。背も伸びたし、結構鍛えてたし」 「そっか」  なんだか、あんまり近いと――――……。   少し、圧迫感を感じる。    二年前の仁とは違うと分かってても。   ――――… なかなか、そんな簡単に、この感覚は、忘れ去れない、というのを、実感。  少し焦ったのを隠したくて、「乾かしておいで」と言いながら、仁の横をすり抜けた。  ――――…意識、しない。する意味は、ない。  ついさっき、仁の話を聞くまでは。  仁が、もしかしたらまだ僅かでもオレの事を引きずってるかもしれない、と思ってた。もし、気持ちを引きずってなくても、あんな状態で兄貴が逃げるように出ていったって事に、傷ついたままかもしれない、とも、思ってた。  だから。  色んな意味で、罪悪感を感じてたし。  置いてきた事も、ずっと、つらかった。  何も言わない、何も言葉が聞こえない、仁の夢も、  そういう自分の気持ちが、夢に出てきていたんだと思ってる。  仁がもう、オレのことを吹っ切ってるんだから、オレはもう、何も気にする必要はない。もう違うと分かったなら、きっともうこれから先、徐々に忘れられるはず。  仁と普通に暮らし続けられれば。  兄と弟として、仲良く、居られるようになるはず。    自分の中の気持ちを、そんな風に整理しながらリビングに戻ると、テーブルの上のスマホを手に取った。

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