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第31話 「居心地」

 久しぶりの、仁との――――……しかも、二人きりでの、食事。  意識したら、なんだか緊張してきて、何を話そうか迷っているオレに、仁が普通に話しかけてきた。 「な、彰、ここら辺、剣道の道場ある?」 「んー……どうだろ。 大学に剣道部あるけど……」 「それは運動部の部活だよね? そこまでがっつりやりたくないんだよね……道場で、行きたい時に行ける位のが良いな」 「そっか。塾の先生達、地元詳しいから、良いとこあるか聞いてみるよ」  時間を見て、少し早めに食事を終えた。  コーヒーを飲んで、ほ、と息をついてると。  同じようにコーヒーを飲んでた仁が、微笑んだ。 「――――……やっぱりコーヒー美味しい」 「今度、違う豆で淹れるね。そっちも美味しいから飲んでみて」 「うん――――……楽しみ」  仁が、ふ、と笑う。  あー……なんか。   ……ほんと雰囲気、違うな。  反応が――――……大人っぽい、ていうのかな……。 「ごちそうさま。ごめん、先終わるね」  食器を重ねながら立ち上がろうとしたら。 「片付けとくから、そのままでいいよ」  言われて。 「……ん、ありがと」  と、食器から手を離した。  歯を磨いて、髪を整えて。カバンを手に取って、玄関に向かう。  仁も一緒に玄関まで見送りに来てくれた。 「仁、今日どうすればいい?」 「昼どっかで食べない?食べてからベッド見にいきたい」 「そしたら……どこかで待ち合せる?」 「んー、どうせオレ暇だし、彰のバイト先の塾のとこで待ってる。場所、入れといて」 「ん、分かった」  靴を履いてから、下駄箱の中に引っ掛けていた合鍵を手に取る。  仁を振り返って、鍵を渡した。 「これ、あげる。仁が使っていいよ」 「――――……ありがと」 「じゃ、行ってくるね。あとで」 「ん。頑張って。いってらっしゃい」  仁に見送られて、家を出る。  ドアが閉まって、思わず、ほっとする。  ――――……なんだか。  昨日まで、考えもしなかった事態で。  この微妙に浮ついてる、落ち着かない気持ちを、どうしたらいいのか、よく分からない。  話していると、ほんとに普通で。  むしろ、すごく居心地が、良い。  そうだった。  あんな事になってなければ、仁はすごく可愛くて、仁と居るとすごく楽しくて、穏やかで。居心地が良かった。年が近いから、仲の良い友達同士みたいで。  ――――……そうだ、すごく、楽しかったっけ。  そんな遠い記憶が、よみがえってきた。  ――――……戻れるのかな。前、みたいに。  たまに近すぎたりすると緊張したり、何かあると、ドキ、と心臓が動くのは……まだあの時の記憶がオレの方に、残ってるだけなのかも。  ……だとしたら――――……  もう少し経って、慣れたら、大丈夫になるかな。  そんな風に思ったら、少し、楽になって。  仁に、塾の場所の連絡を、入れて。  塾までの二十分弱の道を、早歩きで進んだ。

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