33 / 135

第33話「並んで一緒に」

 講義が終わって、諸々雑務も終えて、十二時。 「彰、ついてるよ。下で待ってる。急がなくていいよ」  約二年ぶりに、仁から入ったメッセージを見て、オレは立ち上がった。 「じゃ、お先に失礼します」  近くの先生達に声をかけていると。 「彰先生」  社員の勇樹先生に呼び止められた。  オレがバイトに入った時に、色々教えてくれた、直属の上司。 「今日も真司先生休みだって?」 「はい」 「授業平気? まあ、平気だとは思うけど。負担感じてない?」 「……うーん、全部見渡せてない気がして。講義は基本は大丈夫かなとは思いますけど……」 「真司先生がやめるつもりなのかは分からないけど、たぶんそろそろ真鍋先生も話すだろうし…… 色々考えないとだなあ……」 「ですね」 「あ、悪い。帰るとこだったね。 お疲れ様」 「はい。 お先に失礼します」  勇樹先生と別れてエレベーターの前で待っていると、真鍋先生がやってきた。 「彰先生、お疲れ様」 「お疲れ様です」 「今日は時間ピッタリ。珍しい気がするね」  クスクス笑われて、頷く。 「あ。はい。下で弟が待ってるので」 「あれ 彰先生って、実家から出てきて一人暮らしですよね?」 「昨日から、一緒に住む事になって。 来月から同じ大学なんです」 「へえ。 優秀な兄弟ですね」  そんな会話をしながら、一緒にエレベーターに乗り込む。 「真鍋先生は、外出ですか?」 「買い物したいものがあってね」  一階について、ビルを出る。  すぐ近くに待ってた仁がオレを見て動こうとしてすぐに、隣の真鍋先生に気付いて足を止めた。  オレの様子に気付いた真鍋先生が、仁の方に目を向ける。 「弟さん?」 「あ、はい」  真鍋先生が仁に気付いた事を、仁も気づいたらしくて。  ちょっと首を傾げながら、仁がこっちに向かって歩いてきた。 「塾長の真鍋先生だよ。……先生、弟の仁です」 「はじめまして」  仁がぺこ、と頭を下げている。 「彰先生にはいつも頑張ってもらってて――――……あ。……仁、くん?」 「……?はい」 「彰先生と同じ大学だって?」 「はい」 「良かったら、春休み、バイトしない?」 「「え?」」  オレも仁も同じ声を出して、真鍋先生を見る。 「今一人休みがちな先生がいて、彰先生にいつも迷惑かけちゃってて。小テストの丸付けや、プリントの回収や、質問に答えるとか。 受験終わったばかりの頭なら、全然いけると思うんだけど、どうかな?」 「――――……」  仁は首を傾げて聞いていたけれど。  ふ、とオレに視線を流した。 「兄の手伝い、って感じですか?」 「そう。もし気に入ってくれたら、先生として続けてくれてもいいけど。またこれから求人することになると思うし。まあでも今は、春休みの彰先生の手伝いってことで、軽く考えてもらえれば。彰先生も、雑用とか頼みやすいでしょ?」  ……真鍋先生は、オレ達の微妙な過去を知らないから。って、知るわけがないけど。  もう、それはそれは普通に、良い事を思いついた位の感じで、まくし立ててくる。  少し黙って話を聞いていた仁は、分かりました、と言った。 「今日はこれから用事があるので――――……次回兄が出勤する時、詳しいことを聞きに行ってもいいですか?」 「もちろん。彰先生、仁くんに色々説明しておいて」 「――――……はい」 「じゃあ、また。彰先生、よろしく」  返事をして、仁と二人、真鍋先生を見送る。 「……なんか、人当たり良いのに、押し強い人だね」  仁が、ぼそ、と言う。   「この僅かなやりとりで、すっごい言い当てるね、仁……」 「あ、やっぱりそういう人?」 「……まあ……いい人だよ」  言うと、仁が、クスクス笑う。 「でもいいや。バイト探そうと思ってたし。ほんとはもうやりたいとこ、見つけてきたんだけど。……こっちが決まったら、そっちも電話して面接行ってくる」 「え、いつ見つけたの?」 「今、ここにくる間に」 「どこ?」 「受かったら言う。でも塾も、彰の手伝いくらいでいいなら、全然やるよ。春休み、暇だし」 「……あとで話すね。ごはん、食べにいこう。何食べたい、仁?」 「んー。なんかうまいもん」  ……なんてアバウトな返答。  クスクス笑ってしまう。 「うまいもんって、なに?」 「んー……肉?」 「肉? ステーキ? ハンバーグ? 焼き肉屋さんのランチもあるよ」 「それがいい」 「焼肉?」 「うん」  ぷ、と笑って。  じゃ、いこ。と歩き出す。すぐ隣に仁が並ぶ。  二人で並んで、歩くのなんか、ほんとに久しぶり。  ――――……二年前とかじゃなくて……。  オレが高校入った位から、一緒に歩く用事が無くなった気がする。  ――――……変なの。  もう、会えないかと思ってた位なのに。  急にこんなに近くに、並んで歩いてるなんて。  普通に、話してるなんて。 「――――……彰、バイト疲れた?」 「半日だし。全然平気」 「じゃあさ、ベッド買いに行った後、足りない雑貨、見に行きたい」 「うん。いいよ。雑貨ってたとえば?」 「マグカップとか」 「うちにあるのでもいいけど」  そう言ったら、仁は、んー、と少し考えてから。 「さっき見たけど、食器とか、ひとつずつしか無くね? 一緒に食べるならおんなじ方がいい」  そう言ってきた。 「食器そろえたいってこと?」 「うん。揃えようよ。父さんに資金援助してもらったし」 「そうなの?」 「うん。別々に暮らすとなったら、また契約しなきゃいけなかっただろ? その分のお金、揃えるのに少し使ってもいいって、さっき確認した」 「そうなんだ。ん。分かったよ」  ウキウキ言ってる仁が何だか可愛くて。  笑ってしまったら。  仁が、マジマジとオレを見つめてきて。 「――――……なんか」 「え?」 「……彰がそうやって笑うの、久しぶりに見た気がする」 「――――……」 「……やっぱり、笑ってくれてた方が、いいや」  ふと笑ってそう言うと、仁は、視線をオレから外して、前を向いた。 「――――……」  そんな風に言われて、何だか、胸が――――……。  少し、痛いような気がするのは……何でなんだか、良く分からない。

ともだちにシェアしよう!