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第37話 「ルール決め」
「あのさ、彰。あとで、一緒に住むための、ルール決めようよ」
夕飯を食べ終えて、片付けようかと立ち上がりかけた時。
仁にそう言われた。
「……ルール??」
「彰が、ここはこうして、ってとこは守るし。何かないか考えといて?」
「……うん」
何だろ、ルール。
ルールか……。
「……なんかパッと思いつかないんだけど……」
「家事、どれをどっちがやるかとかも含めてさ」
「……うん、……まあ、じゃあ後で話そっか」
「ん。とりあえずここ片付けとくから、シャワー浴びといでよ」
「片付けいいの?」
「うん。で、オレがシャワー浴びてる間に、コーヒー淹れて?」
「あ、そういう事……。了解」
なるほど、効率良い。笑顔で頷いてから、部屋に戻って着替えを持ち、バスルームに向かった。
服を脱いで、何気なく鏡を見て。
まだ痕残ってる…… 亮也の奴……。
ため息をつきながら、シャワーを浴びる。
昨日、仁が訪ねてきてからまだ一日。
ものすごく、濃密に、一緒に過ごしてしまった。
――――……躊躇う暇もないほどに、なんだか普通に顔を見て、普通の会話をして、食事をして。
なんだか、ものすごく強引に、昔の、普通の兄弟だった頃に引き戻されてしまった感じ。
昨日、シャワー浴びてた時は、仁の夢を久しぶりに見た後で、超憂鬱だったのに。
あ。そうだ。寛人に連絡入れとかないと。
……なんて入れよう。「大丈夫」かな……?
シャワーを浴びて、すぐドライヤーで髪を乾かしてリビングに戻ると、仁がちょうど片付けを終えていた。
「仁、ありがと。お風呂いいよ。オレシャワーで済ませちゃったから、お湯入れたいなら入れるけど?」
「オレもシャワーでいい」
「じゃオレ、コーヒー淹れてる。……カフェオレにする?」
「うん」
「砂糖は?」
「いらない」
「分かった。いってらっしゃい」
送り出してから、とりあえずお湯を沸かしながら、コーヒーを淹れる準備をする。
お湯がまだ沸かないので、スマホを手に取った。
「今日は昼から買い物したりご飯食べたり、ずっと仁と一緒に過ごしたけど普通だった。今まで考えてたのがバカみたいって思う位、普通だったよ」
寛人にそう入れて、「心配しないで」と付け加えた。
コーヒーを淹れながら、ぼんやりと、考える。
ルール。
……ルールってなんだろ。
……家事を分担すればいいのかな。
そんな決めなくても、好きにしてくれて、別にいいのに。
ちょうどコーヒーを淹れ終わったところで、仁が出てきた。
上半身裸に、タオルをかけたまま、Tシャツを椅子の背に掛けて、椅子にすわる。
つーか、寛人ー……。
オレじゃなくて、仁の方が全然何も気にせず、裸ですけど。
って、こっちは別にいいのか……。ていうかオレが裸でも、もう、関係無さそうだけど……。
「仁、髪、ぽたぽた水垂れてる」
「ん」
タオルで髪の雫を拭き取ってる。
――――……良い体、してるなー。
ほんと、男っぽい。
亮也も、結構筋肉ついてるけど……。
仁は剣道で、かな。
オレも腕とか胸とか、筋肉つけようかなあ……。
二十歳からでも、キレイに筋肉ってつくのかな。
陸上部だったから、脚は結構締まってるだけど……。
上半身の鍛えが足りなかったなー。と今更後悔。
「コーヒー置くね」
仁の前にカップを置いて、目の前に座る。
「……あのさ、ルールってなに? 考えたんだけど……なんか、浮かばないんだよね。好きにしてくれても、いいよ?」
「んー……家事とかさ。 洗濯とかどうしてる?」
「一人だとそんなに無かったから、二日に一回まわしてたけど…… じゃあ、その日最後にお風呂に入った人が回すことにする?」
「うん。いーよ」
「干すのは、できる方が、夜でも朝でも、好きな時に、干すでいい?」
「うん」
「掃除は、気づいた時に気付いた所…… オレ大体、夜にさーっと掃除機かけて、週一くらいでほこりとったりしてた」
「風呂は?」
「風呂あがりにさーっと洗って終わりにしてる」
「そっか……」
「オレさ、そんなに家事すんの苦じゃないから、そんなに散らかさないでくれるなら、オレやるよ?」
「ん……じゃあ、オレは基本、料理頑張ることにする。覚えたいし」
「あれ、でも料理は一緒にやるんでしょ?」
「うん。そうだけど……まあ、オレがメインで頑張る」
「家事は適当でいいよ。荒らさないでくれれば」
「荒らさないし」
仁が苦笑い。
「脱ぎ捨てっぱなしとか、食べたお皿そのままとか……」
「そういうのはしないから、大丈夫」
仁がふ、と笑って言う。
「そこらへんが 大丈夫なら、ほんと適当でいいよ」
言うと、仁は、ん、と頷いて、Tシャツをやっと着た。
「ドライヤーで乾かしなよ?」
「ん」
「髪と頭皮痛んで、はげるよ」
「っ……あとですぐ乾かすから」
ものすごい苦笑いで、返事しながら、仁がカフェオレに口をつける。
「……彰のコーヒー、ほんと美味しい」
「――――……ありがと」
「彰はコーヒー淹れてくれたらそれでいいかも。オレも家事ちゃんとやるし」
「コーヒーだけでいいなら、すごい楽だなー……」
笑って返すと、仁もクスクス笑ってる。
穏やかな時間。
――――……なんだか、幻みたいな。
まだ少し、夢かなー、とも思う。
二年て。やっぱり長かった、な。
「あ、あと、生活費はどうすればいい?」
仁にそう言われて、んー、としばし考える。
「母さんがまとめて仕送りしてくれるって昨日言ってたから……財布いっこ別に作ればいい? そこから必要なもの払って、食費とか足りなくなりそうなら、バイト代からそっちに入れてく事にする?」
「うん。彰、月いくら位になるようにバイト入れてる?」
「十万前後かな」
「分かった」
「あと何か、話しとく事ある……?」
自分も考えながら言うと、仁が、じ、とオレを見つめてきた。
「ん、何かある?」
「彰、あのさ」
「うん」
「この家に人呼ぶのはあり?」
「――――……」
「今までって、ここに人呼んでた?」
「――――……うん、たまに……」
亮也が一番多いかな――――…… 寛人もごくたまに来てたな。
あとゼミの友達が数人で、とか。女の子も……何回かあるか……。
「彰、恋人誘うのはやめない?」
「ん?」
「そういうので気を遣うのはちょっと嫌かも」
「――――……」
あー……。
うん。嫌、というか…… 困る、かな。
「――――……じゃ、恋人は、無しね」
「ん」
――――……亮也、絶対禁止にしよ……。
心の中で、誓いながら。
そういえば、昔は、仁が彼女を連れて来てるからって、和己と一緒に一階に居た事とかもあったっけ。
和己はまだちっちゃくて、無邪気だったから、なんでだよー、一緒にお姉ちゃんと遊びたいようとか言って……。
可愛かったなあ……。
そういえば昨日密告してきた和己、あの後返事ないな……。
……って。
――――……脱線してる。
えーと。恋人はなし。で。あとは?
「恋人以外の友達は、前もって来るって言っておけばいい?」
「うん。いんじゃない? リビングでも仁の部屋でもどっちでもいいよ」
「……わかった」
「飲みの後に帰れなくなったゼミの奴が何人か雑魚寝しにきた事とか、何回かあるんだけど…… そういうの平気?」
仁は、少し考えて。
「……オレが部屋にこもるから、いいよ」
「ん、でも事前に連絡するから。嫌だったら言って」
「ん」
「――――……こんなとこでいい??」
「んー。かなあ……」
二人で、んー、と考える。
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