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第40話「仁・初出勤」

「イケメンだ」「超イケメンだ」「なになに、イケメン」  女子生徒のみならず、男子生徒までが、受付の所で仁に気付き、そのワードを口にする。  ……なんか可笑しい。  仁は、奥の真鍋先生の所で説明を受けている。  もうほぼ採用らしいので、オレはその間に、受付の斉藤さんに仁のIDカードを作ってもらっていて。受付を通っていく生徒たちが、挨拶しながら騒いでいる。 「斉藤さん、奥にめっちゃイケメンがいるけど……新しい先生?」 「彰先生の弟さんらしいよー」 「あ」  ……あとで隠した方が良いか、真鍋先生に聞こうと思ってたのに……。  斉藤さんは話しかけられた瞬間、答えてしまった。  ……先に口止めが必要だったかな……。 「ええーーー!」  案の定、生徒たちが叫ぶ声。  ――――……あ、もう駄目だ。口止めは不可能。  ……名字が倉科なんて珍しいから、どうせバレるか。  ……もう仕方ない。 「すっげー」 「イケメン兄弟だー」  わいわい言いながら固まっている生徒たちに、「静かにー」「止まらないで教室行ってー」と、促す。 「彰先生ー」  奥から真鍋先生に呼ばれる。 「なんか騒がしかったですね」  真鍋先生がクスクス笑い、仁が首を傾げてる。 「どうかした? ――――……なんか叫び声聞こえたけど……」 「ああ……兄弟ってバレて……」 「え、もう?」  仁は、ぷ、と笑う。 「話したの?」 「あー……斉藤さんがさらっと……」 「そうですか」  真鍋先生が苦笑いしながら。 「でも、名字も珍しいしもう最初からバラしましょう、と話していた所だったので、大丈夫ですよ」  そう言われて、ホッと一息。 「仁先生と呼びますね。 仁先生は、彰先生のサポートでお願いします。結局今日も、二クラス分やってもらう形なので、小テストの丸付けや、プリントの配布、回収、質問の受け答え……できる所から、彰先生の指示でお願いします。本当は二クラス分を、とかは良くないので保護者からクレームが来る前に、体制を整えないと」  真鍋先生の指示に、二人で頷く。  話している間に予鈴のチャイムが鳴った。 「じゃあ、お願いします」 「はい。 仁、行こう」  仁の先を歩き、四階への階段をのぼる。 「講師はエレベーター乗らないでこっちの階段で移動ね」 「ん」 「……イケメンイケメンて超騒がれてたよ」 「……はは」 「最初うるさいと思うけどその内子供達も慣れるからスルーして?」 「大丈夫。気になんないし」  ふ、と振り返る。  ――――……まあ。言われ慣れてるだろうな。 「一応最初に挨拶してもらうから。簡単に自己紹介、できる?」 「ん、平気」  教室に入った瞬間、ざわざわ、と生徒たちが騒ぐ。   「おはようございます。今日は最初に……皆が気になってると思うので、自己紹介からしてもらおうと思います」  教卓でマイクを通してそう言い、ドアの所で止まっていた仁にマイクを差し出した。 「倉科仁です。……彰先生の弟です。とりあえず春休みは、彰先生のサポートで、丸付けや授業進行のサポートをします。よろしく」  大教室の結構な人数の興味深げな視線にも、一切臆する事もなく、マイクを使ってスムーズに自己紹介を終える。 「仁先生かっこいー」「イケメンすぎー」  なんて声と、拍手が起こった。主に女子から。  でも男子も、それに乗って、拍手してる。  仁、苦笑い。 「仁先生、彼女はいますかー?」  そんな質問が飛んできたので、もう切り上げて授業に入ろうとしたら。  仁がまたマイクを持って。 「……好きな人は居るので。それ系の質問はここで終わりにして下さい」  一言すっぱり言い切って、見事質問を切り上げさせた。  仁が歩いてきて、オレにマイクを返してくる。 「……えーと。授業を始めます。まず小テストを配ります」  言いながら小テストのプリントを手にすると、仁がすかさず取りに来てくれて配ってくれる。 「プリントが手元に行ったら名前だけ書いて待っててください」  並んでる席の後ろで、余ったプリントを回収しながら戻ってくる仁を見つつ、テスト開始を伝える。 「余ったプリントね」 「ん、ありがと」  それを受け取って教卓に置き、回答を仁に渡す。 「丸付け用の回答これね。今日のは、表が漢字と、裏は数学の計算問題だから、〇か×かでつけてくれればいいんだけど、たまに文章題とかだと△つけたりする……まあそっちは出てきた時に」 「ん」 「で、丸の数を点数のとこに書いて。そうだ、丸付け終えたら回答と一緒に配るから、列で順番に返せるように、プリントの並び順変えないで丸付けて。各自間違えたとこやり直して百点にしてから、提出。 提出された小テストの点数を、この表に書いておいて、で、次の時に返す感じ。 って一気に言い過ぎ?」 「大丈夫、分かったよ。丸付けて、点書いて、皆に配って、やり直したら回収だろ? で、点数を記録しとく。でいい? 記録は名前順?」 「うん。でも名前順なんだけど、もう一人の先生のクラスの子達の表は、また別になってて。オレは自分のクラスの子の名前分かるから分けれるんだけど……」 「……じゃあ彰のクラスの子達にさ、提出前に名前の横に〇してもらっといてくれたらいいよ」 「……なるほど。 分かった」 「ん」  ふ、と笑って仁が回答に視線を落とす。 「……中学生の問題、懐かしいな」 「――――……」 「彰によく教えてもらったな」  そんな風に言って仁が黙る。  時計を見ると、もう、時間。 「はい、終了。もともと先生のクラスの子は、名前の横に〇をつけといてください。真司先生のクラスの子は何も書かないで。 終わったらプリント前に回してください」  前に流れてくるプリントを、仁が回収してくれている。 「はい、教科書、六十七ページからいきます。開いてね」  教室の一番後ろの空いてる席に座って、仁が丸付けを始めてる。  何だか、仁がいる所で授業するの、変な感じ。  ――――……少し気恥ずかしい気持ちになりながら、授業を始めた。  

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