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第41話「好きな子」

「これで今日は終わります。気を付けて帰ってくださいね」  午前の講義を全て終えて、マイクを置く。  「さよなら」と口々に言いながら、生徒達が教室を出ていく。  何人か質問にきた生徒の対応を終えて、ふと仁の姿を探すと、教室の後ろの方で何人かの女子生徒たちに囲まれていた。質問……て感じじゃないな……と、苦笑い。 「仁」  呼ぶと、すぐに、気を付けて、と生徒達に言って、仁が歩み寄ってくる。 「お疲れ、仁」 「ん、結構大変だね、これ一人でやってたの?」 「丸付けだけ手伝ってもらったりしてたけど…… 目が行き届かないなと思ってた」 「どうだった?オレ。役に立った?」 「うん。 すごくやりやすかった。ありがと」 「はは。良かった」  教材をまとめて、手に抱える。 「彰の授業、分かりやすい」 「そう? それは良かった」 「オレがあの高校受かったのも、彰のおかげだし。前も分かりやすかったけど……なんかもっと分かりやすくなってる気がする」 「教え方とかも、習うからね……あと、教える用の教材もあるし」 「オレ、とりあえず春休みは彰の手伝いでしょ。んで、学校入ってからは、やる気があるなら、って、真鍋先生に言われたよ」 「そっか。 まあ、春期講習中に考えればいいよ。仁が入学して落ち着いてからでもいいしさ」 「うん。今日とりあえず、もう一個バイトしたいとこ、連絡してみる。ここに入るのは、月水土日、て聞いたから」 「うん」  階段を下りて、三階にたどり着くと、真鍋先生に呼ばれた。 「仁先生、生徒達に大好評でしたよ」  クスクス笑って、仁に言う。 「真司先生と話して、退職が確定したので、正式に、彰先生のクラスという事で、仁先生にサポートに入ってもらいますね。二人で担当ということで生徒たちには伝えましょう」 「分かりました」  生徒の個人情報など書類を見ながら、オレが真鍋先生と話してる間、仁は、与えられた机で、色々資料を見ている。  ……なんか今更だけど、変なの。  オレのバイト先に、仁が居る。  ――――……ほんと、変なの。 「何かやりにくいことがあったらすぐ言ってくださいね。社員も、サポートに入るようにするので」 「分かりました」  自分の机に座って、ふ、と息をつく。  隣の仁が、オレの方を見て笑った。 「どうかした?」 「……いや。少し大変かなーと思って」 「ん?」 「人数、今までの倍だからさ。――――……皆の顔見てる余裕あるかなーと思って」 「オレも見るよ。手伝うから」 「――――……うん。ありがと」  仁に助けてもらうとか。  ……そんな日がくるなんて。  助けるのはいつも、オレだったからな……。  まあ、兄貴だし。当然だけど。 「さっきの、点数、表に書いてくのって、終わった?」 「うん、終わってる。確認して?」 「うん」  確認すると、ちゃんと出来てて。 「仁、完璧」 「ん」  仁が、ふ、と嬉しそうに笑うと。  やっぱり可愛い。――――……と、思ってしまう。 「仲良しですね」  いつのまにか後ろにいた真鍋先生が、クスクス笑いながらそう言ってる。  ――――……一昨日まで、二年間、まったく、関わり無かったけど。  その前も――――…… 関係、めちゃくちゃで。  ――――……はー……。  仲良し、とか――――…… 言われると、  めちゃくちゃ、複雑なんだけど。  ……仁は、どう思ってる、のかな――――……。  ……聞ける訳ないけど。  次の授業の準備を、仁に教えながら終えて、二人で帰ろうとしていると。  さゆり先生に話しかけられた。 「仁先生、さゆりです。よろしくー」 「あ。よろしくお願いします」 「仁先生、彼女はいますか?」  早速の質問。  なんかさすがだなあ、なんて思いながら、先に行こうか迷ってると。   「――――……好きな人は居ますよ」  仁はそう言った。 「じゃあ、居なくなったら、教えてください」  ……めげない。明るい返事に、笑ってしまう。  仁も、ぷ、と笑って、「分かりました」なんて返事をしている。  皆に挨拶をしながら、エレベーターを待つ。 「――――……」  仁、好きな人、居るのか。  ――――……まあ、この二年、彼女何人も居たって和己情報あるし。  続いてるのかな。 「とりあえず、塾では面倒だから、好きな人居る、でやり過ごすね」  仁が急にそう言った。  「あ、うん。いいかもね」 「彰は? なんて言ってるの?」 「……内緒、て言ってる」 「そうすると突っ込まれない?」 「突っ込まれても、内緒って言い続けてれば終わるよ」 「……んー、めんどくさいな。 好きな人がいる、だと、そこで終わるんだよね、大体。そっちでいい?」 「うん。いいんじゃない? 実際今日それで終わってたし」  言いながら、二人でエレベーターに乗り込む。 「……彰は、好きな人、居るの?」 「――――……」  不意に、そんな風に聞かれて。  体の付き合いある子は居るけど――――……。  女の子も居るし。亮也もだけど。  好きかて聞かれると…… まあそりゃ好きだけど……。  今仁が聞いてるのは、そういう意味での好き、じゃない気がする。  あと、仁と、こういう会話をするのは、自分の中では、まだ微妙過ぎて。  なんて答えたら良いのかも、分からない。  いろんな事が浮かんで、咄嗟に応えられない。

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