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第48話「謎のランチタイム2」

 寛人が飲み物を持って戻ってきて、目の前に座る。  しばし沈黙。――――……それがきつくて、何とか話題を絞り出す。 「寛人、何の研修だったの?」 「ああ――――……居酒屋の、接客の研修」 「そんなのもあるんだ」 「うちの居酒屋、接客に超厳しいから」 「うん、それは知ってる。すごい居心地良いもんね、寛人のお店」  何回か行ったけど、接客完璧。店員が皆、酔った人のあしらいもうまくて、すごく感じが良い。 「そのための研修をすげえやってるからな」 「寛人はあれだもんな……酔っぱらいの観察とかで居酒屋バイトなんだもんなー。ほんと、変な理由……」 「酔っ払いっつーか、大人の、観察、な。接客厳しいのも知ってたから、それも良かったし」 「もうそれ以上、人の観察しなくて良いと思う……」  ますます敵わなくなりそうだから。  黙って聞きながら、コーヒーを飲んでる仁に、ふと視線を向ける。 「仁も接客すんだよね。カフェでバイトするんだって。明後日からだっけ?」 「うん」 「へえ。接客のイメージないな、できんの?」 「……愛想笑い、得意だから」  寛人の言葉に、仁はそう返す。 「お前の愛想笑いなんて見た事ねえな」 「必要な時しかしないし」  何か、どうしてこんな感じの、会話しかできないのかなあ。  これから喧嘩でもするのかと、思ってしまう。またまた、オレは、小さくため息……。  寛人は普段から結構口調きついとこもある。偉そうで初めは誤解されるけど、でもすっごく優しくて、面倒見がいい。特に、下には慕われる事のが断然多い。  仁だって、人当たりは良いし、先生とか先輩とかに横柄な態度とったりしないし。むしろ、愛想笑いすらそんなに見た事ない。自然な、笑顔の方が断然、多い。  ……のに、何でか、寛人に対しては、なんか、常にこんな感じだった。 「仁、塾ですごい評判いいんだよ」 「……ああ、一緒に働いてんだよな」 「うん。真鍋先生もほめてたよ。飲みこみ早いし、完璧って」 「……そうなの?」  仁が初耳、とばかりにオレに視線を向けてくる。 「うん。今日言ってた」 「……ふーん」  ふーん、とか適当に返しながら、少し、嬉しそう、かな。  表情が緩んでホッとしてたら、寛人が。 「何で、彰と同じとこ行ったわけ?」  と、仁に聞いてきた。  だから……聞き方……。 「真鍋先生が、初めて会った時、誘ったんだって、話したよね?」  咄嗟に、オレが言うと、寛人はちら、とオレを見て、つまらなそうにため息。 「……ああ、そっか。それで彰のサポートから始めたんだっけ」 「うん」  分かってるくせに、そんな風な聞き方しないでほしい。 「なあ……彰の先生姿って、どうだった?」  寛人が、また、仁に視線を向けてそんな風に聞いた。 「……彰の先生――――……分かりやすいし、優しいし。良いと思うけど」 「けど?」 「別に。……何が聞きたいのかなーと思って」  ほんとだよ、何が聞きたいんだ、寛人。  仁の言葉に、心の中で激しく同意するオレ。  なんとなく、聞いたらずばりで返ってきて、ろくなことにならない気がするので、言わないけど。  聞いてもないのに、寛人が更に何かを言おうとした時。 「おまたせしましたー」  店員の明るい声が、場を裂いた。  ありがとう、と思うような。  この話はさっさと片づけてしまいたかったような……複雑な気持ちに襲われる。 「とりあえず食おうぜ」  寛人がそんな風に言って、食べ始めてる。 「いただきます」  一応言ったけど、なんだか楽しい食事ではなくて。  大きなため息をつきたいけれど、それは我慢して、オレも食べ始めた。

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