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第49話「謎のランチタイム3」

 もう下手に喋るとろくな事にならないから、無言で食べる。  食べてる間に、詰まりたくない。  寛人も仁も、あんまり気にしてる風でもなく、黙って食べてる。  ほんと。この空間は一体……。  ……寛人は、高校時代に、オレと仁の間であった事を知ってる。  そこまで細かく言ってないけど、好きだと言われて、キスされて、その後、拒絶したって事までは、知ってる。   オレが逃げるように実家を出た理由は言ってはないけど、多分悟ってる。  こっちに来て、恋人を作ってない事も知ってて、セフレみたいな関係を持ってる事も知ってる。  別に話したくないのに、なんでだか話してる内にバレてしまう。    ……頑なに、亮也の事だけは、言ってないけど。これに関しては、男となんて思いつかないみたいで、問われないから、バレないで居られてる。  同居する事になった仁との事も、最初は心配して、毎日連絡しろとか言ってたけど、四日目の「大丈夫」を入れたら、その後は何かあったら言ってこい、という事になって、もう日々の連絡はしていない。  仁との事、昔から今まで、大体の事、知られてはいるけど。  大変な諸々は、もう、過去の事で。  今は、ただ一緒に暮らしてて、バイト先の人手不足で、仁にサポートに入ってもらったという事実があるだけ。  今は仁に関して、何もやましい事なんてないはず、なのに。  何で、仁と向かい合わせたくないんだろう、オレ。  食べ物が、何だか、全然、おいしいと感じられない。 「彰、ごめん、立ってくれる? 飲み物入れてくるから」 「うん」  一度立ち上がって、仁が席から出て行ってから、席に座り、すぐに寛人に向き直った。 「寛人」 「ん?」 「……何、したいの?」  聞くと、寛人は食べ終わった皿を端にどけながら、ちら、とオレを見た。 「別に? 話したかっただけ」 「……意図は?」 「別に。――――……なあ、あいつさ」 「……?」 「超良い男になってんな」 「―――……そう、だね」 「すげえ大人っぽくなってるし。……オレに対する態度は変わってねえけど」  くくっ、と可笑しそうに笑って。  それから、ふ、と息をついた。 「……それでも、やっぱ、別人みてえ。……色々悩んだからかな……」 「――……なに、それ」 「別に。――――……まだ、彰、て呼んでるんだな」 「……名前は、なんか、それで呼びたいって言うから」 「ふうん……」  なんかもう、ずっと、何かが詰まったような、話の仕方。 「寛人、何が言いたいんだよ……もう、すごい疲れるから、はっきり喋ってよ」 「――――……まだ分かんねえな……」 「っ……分かんないのはこっちだって……」  ほんとに、意味がわかんないって……。    そこで仁が帰ってきてしまった。  寛人との話を続ける訳にもいかず、味が良く分からない食事を、とりあえず最後まで食べる。  食べ終わって、もう、そろそろ帰りたいな……なんて思っていたら、突然。 「あのさ。片桐さんて……」  仁が、寛人に向けて、話しだして。 「ん?」  寛人が、まっすぐに仁を見つめる。  そこで、しばらく、仁は黙った。そして。 「……高校ん時にオレが彰に言った事、知ってるんですか?」  そう、言った。  硬直してるオレをよそに、じっと仁を見つめた後、寛人が答える。 「……オレが聞きだした事だけは、聞いたけど。多分彰は全部は話してないと思うから……一部知ってる、が正しいかな」 「――――……なるほど……」  ちら、と仁がオレに視線を向けてくる。 「……あのさ、彰。悪いんだけど…… ちょっと、席外して」 「――――……え?」  仁の言葉に、耳を疑う。  そんなオレを見て、寛人は苦笑い。 「そうだな。彰、ちょっと外出てて。今日は奢るから、そのまま出てっていいよ。あとで電話するから」 「……は?……寛人まで何言って……」  え。この二人を残して、オレが外に出るの? 「……嫌、なんだけど……」  そう言うと、何故かこんな時ばかり意味不明に気が合う二人。 「大丈夫だから」 「大丈夫だって」  仁と寛人に、同時に言われる。 「え、本気で言ってるの……?」  もう一度聞くと。 「「本気」」  ……もう、実はものすごく気が合うんじゃないだろうか。  ……ほんとに、意味が分からない。  仕方なく、二人を置いて店を出た。  けれど。出た瞬間に、戻ろうかと思ってしまう。  でも、あそこまでそろって出てろと言われたら、戻れない。  …………。  意味が、分からない。

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