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第51話「超能力?」

「寛人……。 仁、大丈夫だよ?」  そう言うと、寛人は、肩を竦めた。 「オレは――――……お前が遂に無理矢理襲われたとか、そんな話、絶対ぇ聞きたくねえから」 「……なに言ってんの。……寛人、ほんと馬鹿……」 「――――……って、思ってたんだけど」  寛人は、んーと、頭を抱えた。 「……今は、何て言ったらいいか、すげえ、迷ってる」 「――――……? どういうこと?」  寛人がなんて言うか迷うなんて、珍しい。というか、初めてかな。  いつも、ズバズバ核心つくから。 「……なんつーか……仁は……自分の事より、お前が大事みたいだから」 「……ん?」 「……とりあえず、そういう心配はねえのかな、とは思った」 「――――……? どういう事かよく分かんない……。何話したんだよ」 「……何話したかは、言わない。そこは仁と約束した」 「――――……は……? もう、意味分かんないんだけど……」 「話した事をもとにお前と話してるから、同じ事だろ。相談されたことがあって、オレはそれに思うことを答えたけど……まあ、相談事は、兄貴には言いたくないんだと。何となく分かるだろ?」 「……なにそれ。 そんな約束する位、仲良くなったの?」 「仲良くはねえけどな」  クッと笑って答える寛人。   「……彰さ、仁の事、大事だろ」 「……弟だし」 「だからそれって……ま、いいや。大事、だよな?」  何か言いかけて止まって、話を進める寛人に、うん、と頷く。 「――――……あの時、お前さ……考えなかっただろ、ちゃんと」 「……なにを?」 「何で仁のキス振りほどけないのか。お前が、ギリギリでぶちぎれるまで、ずっと許してたか」 「……許してた訳じゃないって、何度も――――……」 「許してたんだよ。お前は。じゃなきゃ、仁だって何度も出来ないだろ。最後に本気で拒否ってからは、もう何もされなかったんだろ。仁は、お前が本気で嫌がってるのを、無理やり乱暴してた訳じゃないって事だろ」 「……」 「……一度目でそうしようと思えばできたのに、彰はしなかっただろ? オレ、それは、あの時も言ってたよな?」 「……」  何、言ってるんだろ、寛人。  ――――……今更、そんな事、オレに言って、どうしたいんだろ?  確かに――――……オレ、あの時、どうしてキスを振りほどけないのか、考えるのをやめた。考えちゃいけない気がして。  考える事をやめて、仁を拒絶して、逃げた。  でも、もう、二年以上も前の事。 「あのさ……もし、オレが、ちゃんと考えなかった、としてさ…… オレが、それを今から考える意味、あるの? ……今更だろ?」  そう聞いたら、寛人は、オレをじっと見つめた。 「……あると、思う。――――……お前、あれから、恋人を作らねえだろ。セフレとか、お前のキャラじゃねえし。そろそろ辛くねえの?」  視線を逸らせず、見つめあったまま、その質問を受けて、息すら止まる。  ――――……そんな関係を、やめようと思ってる事、まだ寛人には伝えてなかったのに、そんな、セリフ。  ……オレよりオレの事分かってるんだろうか。  何なんだ、ほんとに。 「……あの時ちゃんと考えねえで、仁から逃げてさ。そのことを忘れられずにずっと居ただろ」 「――――……オレ、仁から逃げたって……寛人に言ったっけ?」 「言ってねーけど――――……お前は拒絶して、頑なになって、受験校をこっちに決めてさ。仁の事がなかったら、家を出なきゃいけない今の学校、受けてたか?」 「――――……」 「……まあその理由だけとは言わねえけど。家を出るっつーのの、一つの理由ではあったろ。『大事な仁』の事、ちゃんと考えねえで逃げたせいで、お前、ずっと後悔してたのに、今突然現れて完全に忘れたとか言われて――――……良かったって思いながらも、全然すっきりしなくて困ってんじゃねえの?」 「……困っては、ない」  再会したあの時、また好きだなんて言われたら――――……。  それこそ本当に困っただろうし、一緒になんか、絶対住んでない。  だから、今は、困って、ない。 「……ほんとに、困ってねえか?」 「――――……どういう意味だよ」 「……お前、何かあるとよく、情緒不安定になるけど。なってねえ?」 「……なってないし」 「……泣いたり、してねえ?」 「……っ……して、な」 「嘘つくな」  呆れたように言われて、ため息をつかれる。  なんかもう盗撮でもされてるんじゃないだろうかと思うレベルで、暴かれてると、もう、逃げ出したくなってくる。 「……つか、もう、寛人、超能力者なのかよ……」 「――――……何年お前と居ると思ってんの。しかもものすごい近くで。んでもって、お前、オレの周りに居る誰よりも分かりやすいし」 「……っ……」  もう。ほんとに。  ――――……嫌だ、寛人。

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