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第52話「隠し事がバレていた」

「んで、何で泣いたの?」 「……さあ……」 「さあって?」 「……勝手に……よく覚えてない……気付いたら、泣いてて……」 「またいっぱいになった感じか? まあオレも、今までに何回お前泣いたの見たかなーて感じだしな……」 「……ごめん」 「いーけど」  苦笑いの寛人。 「勝手に泣くとか、一番やばいやつじゃねーか……その前、なにがあった?」 「……よく分かんないけど。一人の女の子とセフレ解消、して……別に特別何も思ってないのに……何か――――……うーん。何でだったかな……思い出せない……」 「……やばいなお前」 「……ハイ」 「……仁はちゃんと考えてて、どうすべきか決まってるから、あいつはほっといてもいいかと思ったんだけど……お前は、自分の事、まずちゃんとしろ」 「――――……ちゃんとって……今もしてるけど」 「……はあ? もう二十歳の男が? 何で泣いたかも分かんねえのに、ちゃんとしてるとか、言うなよ」 「――――……」  はあ……。もうその通りすぎて、反論できない。 「お前ってほんと、見た目しっかりしてんのに……中身たまに弱すぎるよな……皆騙されてて気づかない奴多いし――――……」 「……つか、オレ、しっかりしてるって言われて生きてきてるからね」 「完全に騙されてるよな……」  苦笑いの寛人に、オレは深いため息とともに、静かに言い返す。 「……よっぽどの事がないと、そんな風になんねえもん……」 「じゃあ今はよっぽどなんだって、ちゃんと自分で認めとけよ」 「――――……」  ……今って、いったい何が「よっぽど」の事なんだろう。  仁と和解できて。仁と仲良く出来てて。  ――――……セフレもそろそろやめて、生活、ちゃんとしようと思ってて。  ――――……一体この状態の何が、よっぽどなんだ?  でも確かに――――……心の一番深いとこに何かがあって。  その何かが、消えずにずっと、ある……ような気はする……けど。 「あん時逃げたのがまずかったんじゃねえの……? 逃げっぱなしにできる奴ならそれでもよかったのに、お前はそれが出来ないんだからさ……」 「――――……」 「……ならもう、考えて、自分の中でちゃんと結論を出して、この先どうすべきかもう一度考えた方がいいんじゃねえのか?」 「――――……」 「仁は今のままなら、ほっといて平気。あいつはちゃんと考えてるから……だから、とりあえず、お前はお前をどーにかしろ」 「………あのさ、寛人……」 「ん?」 「……オレ、セフレとかは、やめるから」 「ん?」 「――――……ちょうど、やめようと、思ってたとこで……寛人にも言おうと思ってたんだけど……」 「ああ。 それは良かった」 「……オレ自身より前に、はっきり気づくの、やめてくんない?」 「つか、お前が気づくのが遅いってだけだけどな……オレは前から、お前みたいな奴は、そういうのはやめとけって言ってたけど」 「……うん。言われてた……」  ……亮也の事はやっぱり言う気になんないけど……。   ――――……いや、でも隠さない方がいいのかな…… 何か怖いし……。 「寛人あのさ……」 「――――……ん?」 「……セフレ……なんだけど……」 「ん」  うう。さすがにちょっと怖いけど。  ――――……でも仁の件の時、男同士に偏見はないって、言ってたし、それがなくてもきっと、寛人は、そういうの無さそうだから。  ……言っておこう。  後でバレる方が嫌だ。 「……一人だけ、あの……」 「ん?」 「――――……おとこ……で」  うう、言っちゃった。もう取り返せない。  次の寛人の一言が怖くて固まっていると。二秒後。 「……ああ。それ、今このタイミングでやっと言うのか」  …………思っていた内の、どれでもない言葉。  というか。 「――――……………は?」  やっと言うんだって。  ――――……何その言い方。 「昔、お前に電話かけた時さ、夜中なのに男の声がして。まあ、そんなの別に友達と泊まることだって普通にあることなのに、お前の慌てっぷりが相当やばかったから……そうなのかなとは思ってたんだよな」 「……………………」 「別にそれは大した事じゃねえっつーか。 男女関係なく、お前はやめとけっては思ってたけど。 どうせその内病むだろうから」  けろっとして、そんなこと、言ってる寛人。 「――――………寛人、待って。 オレ、話についてけない」 「……隠せてるって思ってるのがなー。……甘いんだよと思いながら。 まあ、別にそこは、こだわって聞くほどの事じゃねえから、突っ込まなかったけど」 「…………っ……」  もう、オレ、ちょっと今無理かも……。   「……寛人、ちょっと、五分待って」 「あ?――――……ん、分かった」  ものすごい苦笑いを浮かべながら、スマホを出して、時間を確認してる。  オレは、脚に肘をついて、頭を抱え込む。  ――――……その電話、覚えてる。  結構前……ていうか、たぶん、亮也とそうなってすぐの頃。  初めてあいつんち行って……行為に慣れなくて、ベットの上で動けずにいたら、亮也が、電話鳴ってるってオレのスマホを持ってきてくれて……かけてきてたのが、寛人で。  もう電話に出てるのに、亮也が、「彰、大丈夫? 電話出れる?」とか言うから、寛人の電話で怪しい事言わないで、と思って、ひたすら焦った。  後から考えれば、別に、夜中に男友達の声がしたって、普通は怪しんだりしないし、オレが慌ててた方が怪しかったって、思ったけど。  でも、寛人がそれに関して何も言わなかったし、ずーっと触れても来なかったし。……バレてないと思ってた。のに。  ――――……じゃあ、完全に最初の頃から、バレてたってことじゃん……。  うー……。  オレもう、寛人に隠し事しない……。  後からバレて、こんな恥ずかしい思いするなら……。   「――――……五分経つけど?」 「……っ……もう?」 「もう。経ったけど?」  クスクス笑われて、ため息。 「……隠してて……ごめん……」 「つーか、別にオレに全部を話せとか思ってねーから、謝んなくていいけど」  ははっ、と笑って、寛人がオレに視線を投げる。 「寛人、ほんとに平気なんだね…… 男……とか」 「――――……平気……つーか…… まあ、オレはそっちに興味はねーけど、否定する気はないっつーか。別に悪い事してる訳じゃないし」 「……」 「でもお前、男のセフレとか…… そこだけは、仁にはバレんなよ」 「……まあ……兄貴がそんなの嫌だよね……。うん、バレないようにする。……ていうか、終わりにしようと思ってるんだけど……まだこれから話すんだけど……」 「ふーん……」  寛人は、ふ、と息をついて、何秒か置いてから。 「――――……お前こそ、男ってのは良いんだなって、そこは不思議だった」  すごく、ゆっくり、言葉を紡いでくる。    「仁のことは結局ダメだったから、男がダメなんだと思ってた」 「――――……ん……」 「弟だからダメだったのか?」 「……分かんないけど…… 仁との事があったから、あいつに誘われても驚かなかった……のかも……」 「――――……なんかお前、そこらへん歪んでるなー……」  言われてる意味が良く分からなくて、寛人を見上げる。 「……二年引き延ばしてきたこと……ちゃんと考えな。ちゃんと向き合わないから、ずっとモヤついてんだろ?」 「――――……ん」 「……煮詰まったら、話聞くから――――…… そんな悩まず、明るく考えろよ」 「……無茶言ってるけど」 「お前、暗く考えると煮詰まるから、敢えて明るく考えろよ」 「……頑張る」  言うと、寛人はまた苦笑い。  今日の寛人は、ずーっと苦笑いしてるな。  なんて、ぼんやりと思う。

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