52 / 135
第52話「隠し事がバレていた」
「んで、何で泣いたの?」
「……さあ……」
「さあって?」
「……勝手に……よく覚えてない……気付いたら、泣いてて……」
「またいっぱいになった感じか? まあオレも、今までに何回お前泣いたの見たかなーて感じだしな……」
「……ごめん」
「いーけど」
苦笑いの寛人。
「勝手に泣くとか、一番やばいやつじゃねーか……その前、なにがあった?」
「……よく分かんないけど。一人の女の子とセフレ解消、して……別に特別何も思ってないのに……何か――――……うーん。何でだったかな……思い出せない……」
「……やばいなお前」
「……ハイ」
「……仁はちゃんと考えてて、どうすべきか決まってるから、あいつはほっといてもいいかと思ったんだけど……お前は、自分の事、まずちゃんとしろ」
「――――……ちゃんとって……今もしてるけど」
「……はあ? もう二十歳の男が? 何で泣いたかも分かんねえのに、ちゃんとしてるとか、言うなよ」
「――――……」
はあ……。もうその通りすぎて、反論できない。
「お前ってほんと、見た目しっかりしてんのに……中身たまに弱すぎるよな……皆騙されてて気づかない奴多いし――――……」
「……つか、オレ、しっかりしてるって言われて生きてきてるからね」
「完全に騙されてるよな……」
苦笑いの寛人に、オレは深いため息とともに、静かに言い返す。
「……よっぽどの事がないと、そんな風になんねえもん……」
「じゃあ今はよっぽどなんだって、ちゃんと自分で認めとけよ」
「――――……」
……今って、いったい何が「よっぽど」の事なんだろう。
仁と和解できて。仁と仲良く出来てて。
――――……セフレもそろそろやめて、生活、ちゃんとしようと思ってて。
――――……一体この状態の何が、よっぽどなんだ?
でも確かに――――……心の一番深いとこに何かがあって。
その何かが、消えずにずっと、ある……ような気はする……けど。
「あん時逃げたのがまずかったんじゃねえの……? 逃げっぱなしにできる奴ならそれでもよかったのに、お前はそれが出来ないんだからさ……」
「――――……」
「……ならもう、考えて、自分の中でちゃんと結論を出して、この先どうすべきかもう一度考えた方がいいんじゃねえのか?」
「――――……」
「仁は今のままなら、ほっといて平気。あいつはちゃんと考えてるから……だから、とりあえず、お前はお前をどーにかしろ」
「………あのさ、寛人……」
「ん?」
「……オレ、セフレとかは、やめるから」
「ん?」
「――――……ちょうど、やめようと、思ってたとこで……寛人にも言おうと思ってたんだけど……」
「ああ。 それは良かった」
「……オレ自身より前に、はっきり気づくの、やめてくんない?」
「つか、お前が気づくのが遅いってだけだけどな……オレは前から、お前みたいな奴は、そういうのはやめとけって言ってたけど」
「……うん。言われてた……」
……亮也の事はやっぱり言う気になんないけど……。
――――……いや、でも隠さない方がいいのかな…… 何か怖いし……。
「寛人あのさ……」
「――――……ん?」
「……セフレ……なんだけど……」
「ん」
うう。さすがにちょっと怖いけど。
――――……でも仁の件の時、男同士に偏見はないって、言ってたし、それがなくてもきっと、寛人は、そういうの無さそうだから。
……言っておこう。
後でバレる方が嫌だ。
「……一人だけ、あの……」
「ん?」
「――――……おとこ……で」
うう、言っちゃった。もう取り返せない。
次の寛人の一言が怖くて固まっていると。二秒後。
「……ああ。それ、今このタイミングでやっと言うのか」
…………思っていた内の、どれでもない言葉。
というか。
「――――……………は?」
やっと言うんだって。
――――……何その言い方。
「昔、お前に電話かけた時さ、夜中なのに男の声がして。まあ、そんなの別に友達と泊まることだって普通にあることなのに、お前の慌てっぷりが相当やばかったから……そうなのかなとは思ってたんだよな」
「……………………」
「別にそれは大した事じゃねえっつーか。 男女関係なく、お前はやめとけっては思ってたけど。 どうせその内病むだろうから」
けろっとして、そんなこと、言ってる寛人。
「――――………寛人、待って。 オレ、話についてけない」
「……隠せてるって思ってるのがなー。……甘いんだよと思いながら。 まあ、別にそこは、こだわって聞くほどの事じゃねえから、突っ込まなかったけど」
「…………っ……」
もう、オレ、ちょっと今無理かも……。
「……寛人、ちょっと、五分待って」
「あ?――――……ん、分かった」
ものすごい苦笑いを浮かべながら、スマホを出して、時間を確認してる。
オレは、脚に肘をついて、頭を抱え込む。
――――……その電話、覚えてる。
結構前……ていうか、たぶん、亮也とそうなってすぐの頃。
初めてあいつんち行って……行為に慣れなくて、ベットの上で動けずにいたら、亮也が、電話鳴ってるってオレのスマホを持ってきてくれて……かけてきてたのが、寛人で。
もう電話に出てるのに、亮也が、「彰、大丈夫? 電話出れる?」とか言うから、寛人の電話で怪しい事言わないで、と思って、ひたすら焦った。
後から考えれば、別に、夜中に男友達の声がしたって、普通は怪しんだりしないし、オレが慌ててた方が怪しかったって、思ったけど。
でも、寛人がそれに関して何も言わなかったし、ずーっと触れても来なかったし。……バレてないと思ってた。のに。
――――……じゃあ、完全に最初の頃から、バレてたってことじゃん……。
うー……。
オレもう、寛人に隠し事しない……。
後からバレて、こんな恥ずかしい思いするなら……。
「――――……五分経つけど?」
「……っ……もう?」
「もう。経ったけど?」
クスクス笑われて、ため息。
「……隠してて……ごめん……」
「つーか、別にオレに全部を話せとか思ってねーから、謝んなくていいけど」
ははっ、と笑って、寛人がオレに視線を投げる。
「寛人、ほんとに平気なんだね…… 男……とか」
「――――……平気……つーか…… まあ、オレはそっちに興味はねーけど、否定する気はないっつーか。別に悪い事してる訳じゃないし」
「……」
「でもお前、男のセフレとか…… そこだけは、仁にはバレんなよ」
「……まあ……兄貴がそんなの嫌だよね……。うん、バレないようにする。……ていうか、終わりにしようと思ってるんだけど……まだこれから話すんだけど……」
「ふーん……」
寛人は、ふ、と息をついて、何秒か置いてから。
「――――……お前こそ、男ってのは良いんだなって、そこは不思議だった」
すごく、ゆっくり、言葉を紡いでくる。
「仁のことは結局ダメだったから、男がダメなんだと思ってた」
「――――……ん……」
「弟だからダメだったのか?」
「……分かんないけど…… 仁との事があったから、あいつに誘われても驚かなかった……のかも……」
「――――……なんかお前、そこらへん歪んでるなー……」
言われてる意味が良く分からなくて、寛人を見上げる。
「……二年引き延ばしてきたこと……ちゃんと考えな。ちゃんと向き合わないから、ずっとモヤついてんだろ?」
「――――……ん」
「……煮詰まったら、話聞くから――――…… そんな悩まず、明るく考えろよ」
「……無茶言ってるけど」
「お前、暗く考えると煮詰まるから、敢えて明るく考えろよ」
「……頑張る」
言うと、寛人はまた苦笑い。
今日の寛人は、ずーっと苦笑いしてるな。
なんて、ぼんやりと思う。
ともだちにシェアしよう!