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第53話「問題ないのに」

「あのさ、寛人」 「ん?」 「―――……オレ、敢えて、考えなかったんだよ……」 「……ああ」 「……よく分かんないけど…… もうあれ以上考えたらまずいって……思ったから」 「……ん」 「……それでも考えろって言う?」  そう聞いたら、寛人は少し黙って、それから、うーん、と唸った。 「……彰に任せるけど……でも、二年たってもお前、そんなだろ。考えずに、綺麗に忘れられるならいいけど」 「――――……でも、もう……今更だし……仁にだって、過去のことだし……」 「仁のことは関係ないだろ?お前のことじゃんか」 「……そうだけど――――……だって考えろって、二年前のことなら、どうしたって仁が絡んでくるじゃんか……」 「まあでも……そこがスタートだろ、今のお前……」  今のオレって――――……。  具体的に、どのオレのこと言ってるんだろう。  ずばり聞いて、ずばり言われたくなくて……それを寛人に聞くのは躊躇う。   「……寛人はさ、仁は大丈夫ってさっきから言ってるけどさ……」 「ん」 「……それは、何で?」  二十分位、話しただけだし。  それで、そんなに、仁のこと、全部分かるの?  ……大体何を話したんだよ。  じっと寛人を見つめて聞くと。   「――――……仁は逃げずにちゃんと考えて、その結果ここに居るんだって分かったから。もう崩れない気がする。まあ、まだ高校卒業したばっかのガキだし、何があるかは分かんねえけど。でもよっぽどのことがない限り、あのまま行くんじゃねえかな」  それを聞きながら、再会してからの仁を、思い浮かべる。 「……仁が来た時に話してくれた通りにさ……今オレ達ちゃんと兄弟なんだよ。仲良くやってるし」 「――――……」 「……毎日一緒にご飯作って、バイトも一緒で――――……なんか今はずっと一緒にいる気がするけど……でも、仁、違うバイトも始めるし、春休みが明けたら学校も始まるから、そしたら今より離れると思うから……適度な距離で、普通に仲良くやってけると思う」 「まあ…… そうだろうな……」 「――――……今何も、問題ないんだよ」 「――――……」  言ってから、オレはため息をついた。 「―――……特に問題もないのに、オレ、何がダメで……何がおかしいのかな……」  ずっとあった、モヤモヤしたものと……。  ――――……向き合わないと……いけないのかな。  仁は、あの時の事を勘違いだったって、言ってるのに。  オレが今から考えたって、何かできるとも思えないのに、今更……?  ……正直、すごい、嫌だな……。  はー、とため息をついていると。  しばらく無言だった寛人が、オレをまっすぐ見つめたまま言った。 「今週どっかで飲みにいこうぜ」 「ん……?――――……あぁ。 飲みに……ん、分かった。……じゃあ……それまでに少し考えとく……」 「おう。あとで連絡する。日を決めよう」  言いながら、寛人が立ち上がった。 「うん。あ、帰る?」 「ん。夕方からバイト」 「わかった」 「そうだ、仁、夕飯の材料は買って帰るからいいって言ってたぞ」 「……うん、分かった」  その言葉で。  ――――……仁は、ほんとに普通に話して、普通に帰ったんだな。  そんな風に思って、少しほっとしながら。  寛人と駅まで一緒に歩いて、別れた。

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