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第55話「仁との話」* 寛人side 2/3
「……お前って、何でそんなに彰の事、好きなの?」
「……あんただって、好きだろ?」
「……オレのはそういう好きじゃねえから。なんで、兄貴として好き、を飛び越えるんだよ?」
「……それは……分からない。――――……でも、これは、もうどうしようもないんだと思う。ただずっと、そう感じるから」
――――……どうしようもない、ね。
それが一番、どうにもできねえか……。
「でも――――……オレ、もう絶対に彰には、言わない。あの時みたいに、無理矢理迫って、困らせたり、泣かせたりしない。あんな、悲しそうな顔、もう絶対にさせないって、決めてる」
「――――……できんの、そんな事。んな近くで過ごしてて、辛くねえの」
「辛くても、そうする。 ……会えなかった時より、ずっとマシ」
「――――……そうか」
なんとも言えない言葉に、頷くしか、ない。
「……弟として、彰を大事に過ごして――――……一緒に暮らせる間に、彰から、そういう意味で好きになってもらえなかったら、今度こそ諦める。その後はもう、弟としてずっと過ごすって決めてる」
「――――……お前、一回断られてるし……で、今回は、昔のことを完全に勘違いだったって宣言、してるんだろ?」
「あ、聞いてるんだ、それも」
「聞き出した。オレが、心配で」
「――――……言ったよ。思い違いだった、勘違いだったって謝ったし、やり直したいって言った。……怖がらせるわけにいかないし……」
「……そんな状態で、お前がどんなに頑張っても、彰がお前をそんな意味で好きになるなんて、無いんじゃねえの? 自分をもう好きじゃない、あん時も勘違いだったって言ってる弟に、そんな意味で好きだなんて、彰が言うとは思えない」
「そうだけど――――……それくらいの無理、越える位、好きって思ってくんないと……オレ達はどうにもなんない気がするから……。どんなにオレが迫ったって、オレの将来がどうとか、全部そっちに持ってくんだから」
「――――……」
「……オレがそんな意味で好きじゃないって状態で、もしもオレを好きになってくれたら……それならきっと、オレの将来がとか……それを理由に逃げられたりは、しないと思うから……それくらいじゃないと、結局、むりだと思う」
「――――……」
「だからいいんだ、このまま弟としてでもずっと、彰を一番に過ごす。オレが居ないと嫌だって、思ってくれたらいいけど――――……まあ、すげえ厳しいと思うから…… 良い弟で一生過ごす覚悟もしてから、彰のとこに来たし」
「――――……なんかオレ……すげえこと、聞いた気がするな……」
「あー……すみません」
仁が苦笑いしながら、オレを見つめてくる。
一度息をついて、それから、まっすぐに仁を見つめ返した。
「――――……お前がそこまで考えて、そうするって決めてんなら……オレ、お前のしてること、納得できるわ」
そう言ったら、仁は、固まって、その後、ぽかん、と口を開いた。
「――――……え?」
「何?」
「なに、って……だって……」
言葉にならない仁が、少し可愛く見える。
すげえ決意して、兄貴を好きとか言ってんのに、急にこんな、抜けた顔、するんだなと、自然と笑んでしまう。
「……納得、してくれるんですか?」
「――――……だって、納得しない理由が見つからない。そこまで覚悟してんなら……お前を止める権利なんか、ねえし」
「……じゃあ、彰には」
「言わねえよ」
「――――……」
仁は、ほっとしたような顔で、少しだけ笑った。
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