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第56話「仁との話」* 寛人side 3/3

「オレ、昔から、仁は何のつもりなんだろうって、思ってたんだよ」 「え?」 「中学で生徒会を彰とやるようになった頃からかな。お前の視線が突き刺さってくるから――――……お前は彰をどんな目で見てるんだろって」 「……そんな、オレもまだ認めてない頃に、バレてたの?」  ほんと、こえーな。と、仁が呟く。 「……そしたら二年前、彰がもう見るからにおかしくて、聞いたら、そういう話だった。まあカマかけて、仁か? て聞いたから、認めたんだけどな」 「――――……あんたは、あの頃反対してた?」 「……反対はしてねえよ。彰が良いなら、そうなっても良いんじゃねーのかと思ってた。 今も別にお互いが良いなら、どんな関係でも、オレは別に良い」 「――――……変な人」  仁が、ぷ、と笑った。 「オレ、この話、他人にしたの、初めて」 「――――……まあ、なかなか言えないよな……血が繋がってなくても、兄貴だし」  仁は少しだけ頷いて。  少し黙った後、また口を開いた。 「オレから彰に言う事はないから、多分彰が困る事は、ないと思うんだけど……」 「……ああ」 「――――……もしオレの事で、彰が困ってて、辛そうで、片桐さんに相談したりして……」 「――――……」 「オレが、彰の側に居ない方が良いって、判断したら……」 「したら?」 「……とりあえず、教えてもらえますか?」 「――――……オレが判断したら諦めるのか?」 「……それですぐ諦めるかは分からないけど――――……あんたがそう思う位、彰が困るなら、離れるっていう選択肢も、考えるから」 「――――……彰が困るような、何かって何?」 「……バレないようにするつもりだけど……オレが想ってるのが、バレないとも限らないし。言わなくても、バレる事だって……ないようにしたいけど、分かんないし。 ――――……それで彰が苦しむなら、離れるのも仕方ないとは……思うから」 「――――……分かった」 「オレの携帯番号、教えといていいですか?」 「ん。オレのも、登録しといて」  番号を交換してから、スマホを伏せると、仁は、急にオレの顔を見て、ニヤッと笑った。 「オレ、片桐さんのこと、嫌いだったんだけど――――……」 「あ?」 「理由は、完全に嫉妬で」 「――――……」 「今日、嫌いじゃなくなりました」  悪戯っぽく笑って、仁がそう言う。  さっきまでの、決意を秘めまくりの表情じゃなくて。  年相応の、無邪気な、笑顔。  ああ、きっと――――……。  こういうとこを、彰は、仁が可愛いって、言ってたんだろうなと。  ふと、思った。  彰を、好きでさえなければ、きっとこんな顔でいつも、笑ってたんだろうにな。と、少し、可哀想にも思えるけれど。  ――――……好きでどうしようもないのは、仁自身なんだから、それも、仕方ないのか……とも思った。 「――――……お前も、どーしても辛くなったら、連絡しろよ」 「――――……」  まっすぐオレを見て、にっこり笑って、無言で頷く。 「オレが払うから今日はいいから――――……オレ少し、彰と話してから帰るから、仁は先に帰ってな」 「……はい。ごちそうさまです――――……彰をよろしく……て言うのも変だけど。あ。夕食オレが買ってくって伝えてください」 「おう。……またな」 「――――……それじゃ」  最後に、にこ、と笑って。仁が店を出ていった。 ◇ ◇ ◇ ◇  電車の窓ガラスに、仁の後ろ姿が、浮かんだ気がして。  息を、ついた。  もしかしたらと、思ってたこともあったけれど。  でも、ほとんどが、想像以上で。  あの仁に、  考えることを拒否して、ずっと避けてきた彰が、  どう向かい合うのか……。  ……正直、まったく読めない。  余計な事を言ったら、さらに悩みそうだし。  でも言わなくても悩みそうだ。  ……よっぽどの事がないと、仁から告白する事は、無さそうだな……。  それで、彰が、好きだと認めるなんて。  ……ありえんのか、そんなこと??  ――――……あんなの聞いちまうと、仁を応援してやりたくなってしまうけど。なんだかそれも違う気がするし。  とりあえず。 彰が病む前に一回会おう。  それまでにオレも少し、考えとくか……。って何をだ。  オレが考えてもな……。  前髪を掻き上げて、そのまま、クシャクシャと頭を掻いて。  ため息を、ついた。

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