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第64話「亮也と」
可愛いとか言われたくないって。
……態度……悪かったかな。
いやでも……可愛いとか普通言わないよな?
……言う奴、居んのかな。
言われても、オレが過剰に反応しすぎたのが悪い?
……スルーすればよかったのかな……。
デザートを買いに行って戻ってきてからも、仁は普通で。
オレの方が先にバイトだったから、この下まで一緒に来てくれて、エレベーターの所で別れた。
仁は全く普通だったから、気にしなくてもいいのかと思いながらも、やっぱり、気になる。
散々悩みながら、塾のバイトをなんとかこなし、頼まれた業務を片づけた。
結局十六時までとなって、その後亮也に連絡したら、もう下に来てると言われた。エレベーターを降りて、待ってる亮也に近付くと、亮也はぱっと笑顔になった。つられて、ふ、と笑む。
「ごめんね、お待たせ」
「ん、平気。お疲れ」
「どーする、どっか店入る?」
「オレ今日のバイト、十七時半からだからさ。なあ、河原いこうぜ」
「河原?」
「さっき通ってきたんだけどさ、桜がちょっと咲いてた。コーヒー買って、行こう」
「……あ、うん。 いいよ」
さっき、行ったばっかり、だけど。
……別に、ダメな理由は、ないか。
二人でコーヒーを買って、そのまま、さっき仁と行った河原にまた向かう。
さっきとは違う場所で下におりて、ベンチに座った。
「彰、顔見るの久しぶりな気がするんだけど」
「うん。ごめん……」
「元気だった?」
「うん。元気だよ。……弟がさ。来たばっかで、他に知り合いも居ないしさ。バイトも同じとこで始めたし…… なんかずーと一緒に居てさ……」
「別に、置いて出てくりゃいーんじゃないの?」
「まあ、そうなんだけどさ」
確かに、そうなんだけどさ。
――――……あんな事があって、二年離れてて。
やっと今普通に一緒に過ごしてるのに、置いてくのもどうかと思って……なんて、亮也に言ったってしょうがない。
「大学始まったら、他に知り合いもできるだろうし。こんなのも春休みの間だけだと思うからさ」
「ふうん……? まあいいんだけど」
「だって亮也も、他にも会ってる子たち、居るだろ?」
「んー……まあ、そうなんだけどさ……」
亮也はじっとオレを見つめて、んーと声を出して唸ってる。
「何?」
くす、と笑って、亮也を見ると。
そ、と頬に触れてきて。ゆっくり近づいて。キスされた。
「――――……」
こんな所で。と思うのだけれど。
とりあえず見えそうなところに人は居なそうなので。
そのまま、亮也を見上げた。
「……彰となら、付き合ってもいいなーと思ってるって、オレ、言ってるじゃん? 他の子、全部別れてもいいよっていう位はさ、オレ、彰に会いたいんだよね」
「――――……」
「……っても、まあ、セフレでもいいんだけどさ。それならそれで、したい時にはしたいじゃん?」
返事が出来ないでいると、亮也はすぐに、自分で話を方向転換してくれる。
つ、と頬をなぞられて。視線を落とす。
「……ごめん」
時間もあまり無いし、人がいつ近くにくるか分かんないところでは、これ以上話す気ないけど――――……。
……セフレも、やめたいって…… 言わないと。
「なあ、彰さ、来週どっかで時間作れる?」
「うん。作る。連絡する。……オレさ、亮也に話したい事があるんだ」
「んー? 気になるけど…… 時間ある時の方がいい?」
「うん。ゆっくり話せる時がいい」
「ん。じゃあそん時な」
「うん」
立ち上がった亮也が、くる、とあたりを見回してから。
少し腰をかがめて、オレに近付いて。
今度は、唇を、深く重ねてきた。
「……っ」
舌が少しだけ絡んで。
「……っ」
少し声を出すと。
亮也は、ふ、と笑って、唇を離した。
「やっぱ、彰にキスすんの、可愛くて好き」
「――――……」
可愛いって……。
――――……可愛いって。
仁に言われる時よりも…… 軽く聞き流せるのって――――……。
前から亮也が言ってるから、なのかな。
「――――……外だってば」
ぐい、と胸を押して、離す。
「大丈夫、さっきも今も、ちゃんと周り見たから」
「でもダメだってば。塾の生徒とか先生とか見られたら、すごい面倒だし」
「……ん。分かった。じゃあ、来週、しような?」
「――――……」
うん、とも言えず。
少し濁して――――……ふ、と息をついた。
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