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第65話「めんどくさいな」

 亮也と別れて、夕飯の買い物をして帰ってきた。  一人で歩きながら、昼間の自分を思い浮かべ続ける。  ――――……やっぱり、オレ、超感じ悪かったよな。  たかが、可愛いなんて一言に、あんな反応で返すなんて。  亮也と話してる時はスルー出来たものを、あんなに、真顔で拒否って。  悪かったな、と思うと、すごく落ち込む。  夕飯は、仁が昔から好きなものを作ろうと、母さんに電話をした。レシピをスマホに送ってもらい、それを見ながら夕飯を作り始める。  唐揚げと、ポテトサラダとオニオンコンソメスープ。  スープとポテトサラダはまだしも、油で揚げる料理を一人で作る日が来るなんて、少し前まで思いもしなかった。  レシピさえあれば、一通り作れるようになったのは、仁が来たおかげに間違いない。  やればできるようになるもんだなー。  なんて思いながら、下準備を済ませておいた。  二十時過ぎに、帰ってきた仁を先にシャワーに行かせる。  色々仕上げて、ちょうどテーブルに並べ終わった時に、仁がシャワーから戻ってきた。 「彰、でたよ」 「ん。 こっちもできた。座って」 「すげえ。なんか、オレの好きなもの、作ってくれたんだね」 「うん。 オレにしては、超頑張った」  言うと、仁は笑いながら、椅子に座った。 「いただきます」  目の前の仁が手を合わせて、食べ始める。 「美味しい――――……これってさ、母さんの……」 「うん、母さんに聞いた。 分かるって事は、じゃあ大体同じ味にできたって事だ。良かった」  ほ、と微笑むと。 「わざわざ、ありがと、すげー美味い」 「うん」  よかった。喜んでくれて。 「バイト、どうだった?」 「んー。オレ、ああいう接客は初めてだから、ちょっと緊張したかなあ」 「そうなんだ」 「女の子ばっかで、なんかきゃあきゃあしてて、接客手間取るし……」 「ふうん…… 楽しかった?」 「うん。カフェで食べるものも作らせてもらえるし。楽しいよ。コーヒー、おいしいからさ。ほんと、オレが慣れたら、呼ぶから来てね」 「ん、分かった。行く」  頷いて、その話が終わると、少し間が開いた。 「あのさ、仁」 「うん?」 「……今日河原でさ」 「ん」 「なんか……オレ――――……感じ悪かった、よな」 「感じ悪い?」 「……悪くなかった?」 「んー…… 別に、無いよ?」 「――――……無いならいいんだけど……でも……」 「――――……」 「……でもやっぱりすごく嫌な感じだったと思うから……」 「……もー、無いって言ってんのに……」  仁は、しょうがないなー、とため息をついた。 「――――……可愛いって話、でしょ?」  苦笑いしながら、仁が言う。 「オレも可愛いって言われたくないし。分かるから、いいよ」 「――――……だけど」 「良いって。そんな気にしないでよ、別にオレ、怒ってない。……ていうかさ、彰に嫌な思いさせたから、オレが少し気にしてた位だし。だからそもそも、彰が気にする事じゃないから」 「でも、なんかごめん」 「だから、オレのがごめんって。これでおあいこな?」 「……ありがと」 「うん……ていうか、お礼言われるのも変だけど。オレが悪いんだしさ」  仁はそう言って、一旦置いてた箸を持ち直した。 「もしかして、悪いと思ってたから、こんなにオレの好きなもんばっかなの?」 「まあ……昨日から、から揚げは作ろうと思ってたんだけどさ。でも、悪かったなーと思って……母さんに聞いてたら、ついでに他のレシピも送ってくれたから、セットになった」 「そっか。じゃあ、その件、彰が気にしてて却ってラッキーって事だね、オレ」 「そういう話でもないんだけど……」  オレが言うと、仁は、クスクス笑う。 「なんかさー。そんなに気使わなくたって、オレ、なんも変わんないよ?」 「ん?」 「気、使わないでよ。オレ、普通に、一緒に居るからさ」 「……ん」  仁は、優しい。  ずっと。  優しい。  何でこんなに、優しいのかな。  優しくて、嬉しいはずなのに。  なんか。  ……痛い。  優しい瞳で、見られるのが。  なんか……ほんと、めんどくさいな。  ……オレ。

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