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第84話「ほんと鋭い」
一緒に買い物をして亮也の家に帰り、しばらく色々話して過ごした。
夕方になってきたので、飲む準備に、つまみを作り始める。
「オレ餃子焼くから。彰は、皿とか枝豆とか出しといて」
「うん」
言われるまま手伝う。
動きながら。仁の事を思い出す。
十八時まで、か。
――――……仁、ご飯は食べとくって言ってたけど……。
早く帰ってきてって、言ってたな……。
仁の言った、早くって……何時だろ。
今十七時だから……とりあえず、しばらく飲んで――――……。
「彰、枝豆はレンジでいーよ」
「ん、分かった」
冷凍庫から買ってきた枝豆を取り出して、皿に並べてレンジに入れる。
「彰、なんか、ごはんとか麺とか食べたい?」
「いいや。つまみだげで」
「ん。もうすぐ焼けるから、酒出しといて」
「うん」
冷蔵庫を開けて、アルコールをテーブルに置いた。
一通り準備が終わって、テーブルで亮也と向かい合う。
「はい、かんぱーい」
「んー。かんぱい」
グラスを合わせて、少し飲む。
今日は酔わないで帰ろ……。
密かに少しセーブしながら、亮也と飲んでいたら。
「彰、酔わないようにしてる?」
「ん? ……ああ。うん。ちょっと」
「何で?」
「こないだ酔っぱらったって言っただろ?」
「いいじゃん、別に酔っぱらっても。介抱するよ?」
亮也の言葉に少し苦笑して。
「そんな酔っぱらってばっかりいれない。明日塾だし。今日は少し早く帰るから」
「ふーん。…… 弟に、早く帰れって言われた?」
「――――……ん??」
あの会話、聞こえるとこには居なかったと思うんだけど……。
首を傾げて、亮也を見つめると。亮也は意味ありげに、ふ、と笑って。
グラスをテーブルに置いた。
「……なあ、オレさ、会った日からお前の事誘ったじゃん?」
「……うん」
「で、ずーっと誘い続けて、何回目かでOKくれたじゃん?」
「……ん」
「それで何回か関係もってからさ。オレがお前に、付き合ってみようぜって言ったの覚えてる? 付き合おうって言ったの、こないだは二度目じゃん?」
「……覚えてるに決まってるじゃん」
何が言いたいんだろ。
亮也を見つめていると。ふ、と亮也が笑んだ。
「お前女とも関係あったけど、そっちとも付き合わないみたいだったし。付き合おって言ったオレに、そん時、自分がなんて言ったか、覚えてる?」
「――――……」
オレがなんて言ったか……??
……なんだっけ。
「彰が言ったのはさ…… オレを好きな奴を置いて逃げてきたから、自分だけ誰かと付き合ったりできない、って、そんなような事言ってた」
「……ああ……言ったかも……」
――――……付き合えないと言っても、納得してくれない亮也に、本当の事を、少しだけ伝えた、のかも。
「セックスはいいのって聞いたら――――……そこまで縛られたくない、って言ってた」
「………言った、かな……よく、覚えてるな……」
亮也は、ぷ、と笑う。
「変な事言うなぁって思ったんだよ。だからすごく覚えてる」
「――――……」
「そんなに後悔する位好きなら、逃げなきゃいいのにって。なんで逃げたか聞いたけど、それは言いたくなさそうだったしさ」
「――――……」
「でもオレお前気に入ってたし。変な事言ってるけど、それも含めて、まあいっかと思って」
「――――……」
「そんな関係が嫌だっていうならやめようって、お前はオレに言ったけど、 オレ、やめるっていうのは選択肢になかったんだよね」
なんだか何も、答える言葉が思いつかず、ずっと亮也を見つめながら、小さく頷くだけ。
「お前が結局誰のものにもならないなら、とりあえずオレがお前の一番近くに居ればいいやって、思ったんだよな……」
そんな風に、亮也が思っててくれたのは、初めて聞いた。
なんて答えようかと思っていたら、亮也が、ふー、と息をついた。
「……でもオレ、今日分かっちゃった、かも……」
「――――……?」
「逃げてきたの――――……あの、弟なんじゃない?」
「――――……」
「それなら、逃げてきた理由も、さっき、すげえ睨まれた理由も……納得なんだよな」
鋭いのは、知ってるけど――――……。
普通ならありえない、そんなとこに気づくなんて、やっぱりすごいな、なんて。ぼんやり思ってしまう。
否定する気も、もはや起きなかった。
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