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第85話「ため息しか」
しばらくの沈黙の後。オレはため息とともに。
「……もーいいや……お前に隠しても、無駄な気がするし……」
そう言ったら、亮也はニヤ、と笑って、「そうそう。全部白状しちゃいな?」と言う。
「……逃げてきた相手が仁だってのは……合ってるんだけど……」
「……けど?」
「もう今は違うから、今日、態度が悪かった理由はよく分からない」
そう言うと、亮也は首を傾げた。
「……今は違うって何?」
「……仁も今年入学するんだけど……昔のは勘違いだったって。兄弟でやり直したいって……謝ってきてくれたから、今、一緒に暮らしてて……」
「――――……へー……」
何だか色んな思いが籠ってそうな、意味ありげな声で呟いて、亮也はしばらく黙って。それから、オレを見つめた。
「二年間、会ってなかったの? 連絡は?」
「……全然。取らなかった」
「向こうからも?」
「うん」
「……じゃあその間に、オレら一緒に居たのか」
ふーん、と、亮也が考え深げに頷いてる。
「弟から告られて、かー……」
「……仁とは血は繋がってないよ。親が再婚したから」
「……ああ。なるほど……」
また、ふーん、と頷いて。
「……現実にあるんだなー義理の家族と恋愛とか。……まあ、男同士だからさらにレアだと思うけど」
「――――……ん……」
「男の兄弟ってなると、遠慮とかも無さそうだし、よっぽどじゃないと、好きになる事なんか、なさそうだけど……」
「……そーだな」
亮也は、んーー、と少し唸ってから。
「……なーんか…… 彰のさぁ……よく分かんなかった部分が、今全部はっきりしたような感覚。分かる? オレ今すっごいすっきりしてるんだよね」
「……まあ。何となく分かる……」
二人で何となく無言。
ふー、と同時に息をついて、苦笑い。
「……大変だな、なんか……」
「――――……高校生の時は大変だったけど……今は別に……」
「何、高校生ん時、何が大変だったんだよ?」
「――――……」
失言……。
亮也は、じー、とまっすぐオレを見つめてくる。
「何かされたの?」
「――――……好きって言われて……キスされた」
「一回?」
「……しばらくの間」
「どれくらいのキス?触れるだけ?」
「……」
少しだけ首を振って、ため息。
「――――……んー……?」
「――――……なに?」
なんか変な事、言いそうだなー……と、警戒しながら、
亮也を見つめると。
亮也が、不意に立ち上がって。
「彰」
頬に触れられて。
不意に、唇が、重なってきた。
「……りょ――――……っ」
舌が遠慮なく入ってきて――――……。
亮也の胸に手を置いて、ぐい、と押し返した。
けれど、亮也の様子は少し変で。
キスしたかったというよりは、何か言いたげなので、黙って、見つめあう。
「何――――……?……」
「……んー…… キスってさ」
ふ、と苦笑いを浮かべる、亮也。
「嫌なら、されっぱなしって、無くない?」
「――――……」
「彰はオレとのキスは慣れてるから、突き飛ばすの、少し迷ったんだろ。でもやっぱり、今はしたくないって思ったから、どけたんだよな?」
「――――……」
「ディープなキスを、しばらくの間、何回もさせるって、無くないか?」
「……仁の時は……最初は驚いて突き飛ばせなかった。傷つけないように、どう言ったらいいんだろ、て、最初の頃は思ってて――――……」
「うん。最初は思ってて?」
「――――……その後は…… なんで離せないのか……分かんなくなって……」
「――――……」
「……でも、もう、考えちゃだめだと思って…… 絶対無理、て言って。ちょうど受験の時期だったから……家出て、こっちに、出てくる事に決めた」
「……ふーん……。そっか……」
ふー、と息をついて。
亮也は、そっと、オレの肩に触れた。
「――――……彰、ちょっとじっとしてて」
そのまま、ぎゅ、と抱き締められる。
「亮也……?」
「なんとなく――――……これ以上何もしねえから、ちょっと抱いてていい?」
「……?……ん」
……なんだろ亮也。
――――……こんなの、初めてだな……。
少しして。
くしゃくしゃ、と髪の毛を撫でられて、ポンポン、と叩かれた。
「……どーしたの?」
「んー…… 彰ってさ、人が具合悪いとか、元気ないとかは、すぐ気づくのにさ。……自分の気持には、鈍くてさー……」
「……そう?」
「――――……まあこれに関しては、鈍いっつーか…… なんかなー……ほんと…… 彰って……」
言いながら、はー、と何度も、ため息をついてる亮也。
「もー、何だよ……」
人を胸の中に置いたままため息をついてる亮也を、少し引き離す。
「彰さ、弟の事が好きだったんじゃないの?」
「――――………」
なんで、こう。
――――……ずばり、核心をつこうとしてくるのかなあ……。
ほんとに……。
「……とりあえず、離れて、亮也」
「……はーい」
苦笑のままふざけたようにそんな風に答えて、
亮也が向かい側にまた座り直す。
「……そろそろ帰ろうかなオレ」
「は? 帰す訳ないじゃん」
「………はー……」
即答されて、ため息しか出てこない。
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