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第86話「できない理由」

「……で? あいつの事が、好きなの?」 「……弟だから、好き、だけど……」 「は?……聞いてんのは弟としての好きじゃないよ。分かってんだろ」  呆れたような亮也の声に、ため息。 「――――……好きも何も……無理だし」 「……無理って何が?」 「……家族だし」 「――――……血つながってないんだろ」 「……でも、家族だよ。親も居るし、下に弟も居るし」 「ああ――――……そういうしがらみに、弱そうだもんなあ、お前……」  そんな事を言いながら、ものすごい、苦笑いの亮也。 「……つか……そんなのに、強い奴、居んの」 「でも、彰は特に弱そう。人のことばっか考えてさ」  む、と黙ってると。  亮也はまた苦笑い。 「とりあえず、弟が勘違いとか言ってんのはおいといてさ。お前自身は、あいつのこと、好きなんじゃねえの?」 「……さっきからさぁ…… 何でそーいう質問になんの? オレ、そんなこと、言ってないだろ」 「だって、弟が来てからじゃん。 彰がオレと、寝なくなったの」 「――――……」  言葉が咄嗟に出ない。  そんなこと、関係ない、と思うのに。 「……もともとセフレとかお前っぽくないけど……でも二年は続けてきた訳じゃん? なのに、オレとだけやめるんじゃなくて、女の子のセフレも、切ったんだろ?」 「――――……」 「……弟の顔見ちゃったら、出来なくなったんじゃないのか?」 「――――……そんなんじゃない……し……」  返すけれど、自分でも歯切れが悪い。 「……じゃあ、オレとできる?」 「――――……」 「少し前まで、もう数えきれないくらいしてきたじゃん。今更一回くらい増えたって、かわんねえよな? ……出来る?」 「――――……」  ……あーもう……ほんとに……。  ……寛人といい、亮也といい――――……。 「……できない」  ――――……なんで痛いとこばっかり……ついてくるのかなあ、もう。  テーブルに肘をついて、額を手で覆い、俯く。 「――――……ちゃんと上むいて?」  亮也はそう言って手を伸ばしてきて、オレの顎を掴むと上向かせた。ちゃんと、オレと目があってから、手を離す。 「なあ――――……無理って、何なの?」 「……え?」 「オレとしてたってことは、男同士は、大丈夫だったんだろ?」 「――――……うん……まあ」 「……弟だから、無理なの?」 「……んー……うん。多分……」 「――――……ふーん……でもさ。あいつは今でも彰が好きなんじゃないの?」  その言葉に、亮也を見つめ、少ししてから、首を振った。 「……違うと思う。……前に一回さ、キスマーク見られたけど……すっごい普通にスルーされて……気をつけなって注意されたし。オレに興味は無いと思う」 「……じゃあ、何もないなら、何であいつあんなに、オレを嫌う訳?」 「――――……それは、分かんないけど……」  ほんとに分かんないんだよなー……。  男の友達が来るっていってた時は、別に機嫌悪くなかったし。  亮也を嫌う理由なんてないと思うし。    ……なんなんだろ。    

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