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第87話「弟は無理」

「なあなあ、彰」 「……ん?」 「もし弟に、もう一度告白されたら、どーすんの? 追い出すの?」 「だから、されないって」 「されたらどーすんのって話。全然、可能性ないの?」 「――――……だから、無理だって」  ……どんなに、考えたって。  ――――……無理、という言葉しか出てこない。 「……なんかさ。もし、弟が彰の事まだ好きだったらさ」 「……」 「すげえ、かわいそうだよな」 「――――……」  ズキ、と痛くて。  亮也を見つめ返した。 「だって――――…… すげえ好きだったのに、弟だからとかいって逃げられて、二年間一人で耐えて…… で、勘違いだって誤魔化してでも、お前と居たくて、好きなのを隠してるんだって思ったらさ。すげえ可哀想」  何だか心、抉られるような気がするけど――――……。  違う、その、「好きなら」という前提が、違うんだから、  だから、可哀想なんて、当てはまらない。  ――――……亮也の言ってるのは、「好きなら」という話だ。 「――――……だから……仁は、オレの事、好きなんかじゃ……」 「……ほんとに、心からそう思ってるの?」 「――――……」  うん。思ってる。  だって、仁は、そういう風に、オレを見たりはしてない。と思う。  むしろ――――…… 昔を思い出してるのは、オレの方で。    二年かけて思い出さないようにして、薄らいできた記憶を簡単に呼び起こされて、なんでだか、毎日苦しいのは、オレだけで。  ――――……仁に、キスされたり、抱き締められてた時の事。  ふとした拍子に、思い出してしまうけど……。  だけど。今のオレの前に居る仁は。  あれを勘違いだったって言って謝って、無かった事にして、兄弟としていようとしてる、仁だから。  そのくせに、たまに。  ただの弟ならしないような……何とも言えない顔、したり――――……。  ――――…… 大事にされ過ぎて、勘違いしそうになったり……。  ……よく、分からない事で――――…… 怒ったり……。  ――――…… あんな風なキスしてたのに、  全然平気な顔で、オレの前に居るなよ。とは、思ってしまうけど……。 「――――……彰?」 「え?…… あ。……えっと…… なんだっけ?」 「だから――…… 弟が、彰の事、ほんとに好きじゃないと思ってんの?」 「……うん。少なくとも、あの頃みたいな好きは……無いと思う」 「――――……聞いてみたら?」 「え?」 「確認させてって。あの頃みたいな好きは、無いのかって」 「――――……って……そんな、蒸し返すような事……」  眉を寄せてそう、返すと。 「好きじゃないなら、蒸し返したって問題ねえよ。 今は違うって言われるだけだろ。 ――――……もし、今も好きなら……ごまかして先延ばししたって、どうせいつか爆発すると思うよ。そんなに好きな奴と一緒に居て、我慢なんかし続けられる訳ねえじゃん」 「――――……」 「好きなら好きで、彰も――――……今度こそちゃんと考えたら?」 「――――……」 「……オレがもし弟ならさあ」 「――――……」 「……弟だっていう理由なんかで断られても、全然納得いかないと思うけど」 「――――……つーか……それ以上に無理な理由ないって位……無理な理由だと思うんだけど……」  そう言ったら、亮也は、はー、とため息をついて、大げさに首を振った。 「バカだなー彰。嫌いだって言われてんなら、諦めるしかないけど、弟だから無理なんて言われて、諦められるれ訳ないじゃん。自分はとっくに兄弟乗り越えて、好きだって言ってんのに」 「――――……」 「男が無理だ、嫌いだ、なら諦めるけど……」 「――――……」 「好きだけど弟だから無理なんて断られても、それこそ、無理。しかも血繋がってねえなら、なおさら」 「――――……亮也……」 「うん?」 「……ほんとお前の言葉って。 たまに、痛すぎて無理……」  言ったら、ぷ、と笑われる。 「……図星だから痛いの?」 「……図星っていうか。考えた事、無かった事、今言われた」 「いや、だって――――……オレなら、そう思うけどって事ね。振られて諦めなきゃって時に、そんな理由で諦めつくのかなーって」 「……でもオレ、そんな事も言ってないよ。 無理って言っただけで。好きだけど弟だから無理なんて、言ってないし」 「――――……だって、お前、キスさせてたんだろ。好かれてんのかなって思うと思うんだけど」  ……また、そこか。  結局、キスを振りほどけなかった理由に、行きつくのか。  そこをはっきりせずに、オレが逃げたのが、そもそもいけなかったんだと、またしても突きつけられるみたいだ。

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