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第88話「味方で」

「――――……亮也って、オレに付き合おうって言ったのにさ」 「え? ああ、うん?」 「何で仁との事……考えろとか言うの」  そう言うと。少し黙った後。  亮也はぷっと笑った。 「だって、弟の事が片付かないと、お前絶対オレと付き合わないもん。これで弟と付き合うなら、オレはお前と友達でいるけど……やっぱり弟が無理って結論出るなら、オレ、またお前に迫るつもり」 「――――……」 「そん時は遠慮なく迫るし。もうそん時は、弟と暮らさせたりしないし? ――――……だから、どっちにしても、早く結論出してほしいなーと思ってるだけ。別にうまくいってほしいなんては、思ってないよ」  クスクス笑ってそんな事言ってる亮也に、苦笑いしか出てこない。 「……まあさ。どっちに落ち着くにしても、オレは、彰の味方だからな?」 「――――……なんで……そんなに言ってくれるのか、分かんないんだけど……」 「んー。……まあ、ちょっと、理由はある、かな。……聞きたい?」 「うん」  理由って……?  亮也を見つめてると。ふ、と亮也が笑って、話し始めた。   「お前に会った合コンでさ、オレお前のとこに行って話してたじゃん。女の子のとこ行かないでさ」 「……うん」 「そしたら、お前、なんでオレの所にくんのって聞いてきたわけ。で、オレが、男も女もどっちも愛せちゃうんだよね、て言ったらさ。そしたら、へえ、そうなんだ、てすげえ普通に言うから――――…… なんか、興味ないからそんな反応なのかなーと思って、こんな話興味ない?て聞いたんだけど…… そん時、自分がなんて言ったか記憶ある?」 「……んー…… 覚えてないけど――――……いいんじゃない、とか?」  答えると、ぷ、と笑って。 「興味ないとかじゃなくて別にいいんじゃない?……って言ってた。愛せるっておかしい事じゃないから、普通に、そうなんだって聞いただけだよって」 「……って、オレ、言ったの?」 「うん。そう言った。……なんかオレ、それですっごいお前、気に入っちゃって。――――……だから、そっからすごい誘ったけど。でも実際誘ったら、だからって何でオレにくんのって、そこは退かれたけど」  あはは、と笑う亮也に、苦笑い。 「でも、最初から、彰って、男って事にはあんまり抵抗はないなー、とは思っててさ。やっぱり、抵抗ない奴って少ないからね。だから――――…… そういうのも、ほんと、今日、すごい納得したけど……」  そう言うと、亮也は、ぱ、と笑顔になって、オレを見つめた。 「だから、とにかくオレは彰の味方でいるから。――――……悩んでても、時間もったいないだろ?」 「――――……」 「聞いちゃえよ。……今も好きなのかって。好きじゃないなら、もう彰は諦めて、オレと付き合うこと、もう一度考えて?」 「……諦めてって……」 「――――……弟を好きな気持ち、諦めなよ」 「――――……」  まっすぐ、見つめられて。  はー、とため息。 「……決めつけてるし。……ていうか、オレ、そもそも無理だって言ってるじゃんか……」 「だから、弟だから無理、とかはやめて、ちゃんと考えたら? その考え方じゃ、お前、ずーっとそのまま生きてくことになっちゃうよ?」 「――――……」 「大丈夫。 どっちにしても無理なら、オレがぜーんぶ受け止めてやるからな」 「……亮也って、ほんと――――……羨ましくなる……」 「――――……まあ、オレも、もっと若い頃に、めっちゃ色々考えたからね」 「――――……そうだよな……ってまだ若いでしょ」 「若いけど……もっと子供ん時から。色々考えたよ」 「……そっか。……そう、だよね……」  「普通」からはみでる事って……。  ――――…… すごく、怖いもんな……。考えるよな……。 「……オレもさ」 「ん?」 「……亮也が困った時は、味方でいるから」    まっすぐ見つめてそう言うと。  亮也はふ、と嬉しそうに笑った。 「ん。ありがと、彰。……さて。もー少し、飲むか」 「あ、でもオレもうすぐ帰るからね」 「げげ。早すぎねえ? そんなに弟に会いたいの?」 「……会いたいっていうか――――……」  ……変だったから、気になって。  今日は飲んだくれて遅く帰るわけにはいかない気がする。 「だめ。もすこし、オレにも付き合えよー」 「……もう少しな?」  ぷ、と笑って答える。  なんかこの明るいのに、すごく救われてた時期もあったなあ……。  ……ていうか、今もか。  寛人とはまた違う感じで。ほんと救われてる気がする。 「……注いでやる」  ワインをもって亮也に差し出すと、ん、とグラスを差し出してくる。 「ありがと。なあ、彰?」 「ん?」 「オレがもう一度迫るとかいったやつだけど……」 「うん?」 「彰の方が片付くまでは 忘れていいからな」 「――――……片付くって……」 「まあ色んな意味で。 振るにしても振られるにしても。彰の気持が落ち着くまで。 オレも、まあ今まで通り遊んでるし。こっちは気にしなくていいよ」 「――――……ん……」  見つめあったまま、頷く。  もう、そこからは完全に話を変えて、楽しく話し出した亮也に、返事をしながら。言われたことを頭の端で考える。  そんな、聞いてみる、なんて、できないよなー……。  大体好きって言われたって、何の覚悟もないし。  好きじゃないって……言われたら――――……。  ………はー。  だめだ。  もうこの先、考えたくない。    ……ってこれがダメなの、分かってんだけど。

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