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第104話「時が経てば」
翌朝。
起きて、とりあえず、コーヒーを淹れた。
どうしようと思ったけれど、仁の分も、淹れた。
昨日で春期講習が終わって、少しの間だけ休み。
四月に入ったら再開する。
――――……春休みだし、本当なら遊びに行ってもいいんだけど。もしかしたら、出てしまった方が、少しは気も晴れるのかも、しれないけど……。
かけらもそんな気分じゃない。……本でも読んで過ごそうと思った。
顔を合わせたくないって言ってたから、部屋に居た方が良いんだよなと思って。シチューをあっためて食べたら、すぐに食器を片付けた。コーヒーを持って、部屋に戻る。
九時を過ぎたあたりで、仁が部屋を出る音がした。
しばらく動く音がしてて。
鍵を掛けて、出て行く音。
「――――……」
……出かけたのかな……。
部屋のドアを開けて。静かな家を歩く。
玄関を見ると、仁の靴がない。
――――……どこ行ったのかな……。
バイト……かな。ならこのまま夕方までは帰って来ないのかな。
飲み終えたマグカップを持って、流しに行くと。
淹れておいた仁の分のコーヒーは、そのまま、残ってた。
コーヒー、いい匂い。
彰の淹れるコーヒーが一番好き。
仁が、優しくいつも言ってくれた言葉が、ふ、とよみがえった。
胸の奥が、痛い。
喉の奥が、熱くなって。
――――……やば……。
涙が、浮かんで、驚いてる内に、あっという間に、頬に流れ落ちて、呆然。
……何、こんなに――――…… 涙、溢れるかな……
子供じゃあるまいし……。
どうするのが、良いんだろう。
涙って、どうすれば、止まるんだっけ……。
こんな風に一人で、涙が溢れて止まらないとか。
いつ以来だっけ……。
とりあえず手の甲で拭うけれど。
……涙って、尽きないのかな。
「――――……」
仁、今――――…… 何、考えてるんだろ。
どんな気持ちなんだろ。
――――……嫌だよな。
オレが……他の奴と平気で寝て。
――――……平気で仁の前に居たなんて。
……そりゃ、オレの顔。見たくないよな……。
……はー。
よかった。春期講習、昨日、ちょうど終わってて。
オレ、とても、普通に授業なんてできなかった。
しばらく経つと、涙が止まって。
ふと息を吐いた。
仁のために置いておいたコーヒーを捨てて、洗った。
自分がこんなに泣くって衝撃だけど――――……。
……今だけだ、きっと。
感情が落ち着けば、泣かなくなるはず。
――――……それまでは…… しょうがないよね。
……だってオレ――――……。
ずっと仁の事――――…… 引きずってきてて。
一緒に居たらますます、好きに、なって――――……。
……はー………ほんと……バカ……オレ。
……仁。
……ごめん。
オレ、ほんとに、お前の事――――……好きだった、のに。
結局一度もちゃんと、好きとは言えずに。
こんな風に、傷つけて……。
「あ。……やば……」
好きだったとか思った瞬間、また涙が浮かんできた。
「……はー……もー……」
……息が、ちゃんと出来ない。
小さく、しゃくりあげるみたいになってて。
――――……子供か。オレ。
吐くため息まで、変に震える。
ダメだこれ。
――――…… も、オレ、しばらくダメだな……。
仁に会わないでいられる内に、どうにかしよう。
――――……時が経てば、落ち着くだろうし。
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