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第106話「久しぶりの」

     ――――………出ようかな……この家。    塾のバイトは、何なら毎日入っても良いし、一日にもっと多い授業数入っても良いと、前から言われている。今、社員達がやってる授業にオレが入れば、他の事ができるから助かる、とのことらしい。 もっと多く入れば、一人で暮らす家なら家賃も払える。  仁が来た時、オレと仁が別に暮らしても良いって、父さんが言ってくれてたらしいし。最初だけ、少し助けてもらえば、すぐにでもどうにかなりそうだし。すごく安いとこなら、今のままでも、払えなくはないかも。  とりあえず、出る準備だけは、しておこう。  いつでも、仁が嫌なら、すぐ、出れるように。  ……仁に嫌悪されてるのかと、思ってしまうと。  ……ほんとに――――……痛すぎる、な……。  頬の涙を、手の甲で拭った瞬間、だった。  がちゃ、と鍵の開く音がするとほぼ同時に、玄関のドアが、急に開いた。  あまりに急だったので、驚いて、動けなかった。  急いで中に入ってきた仁も、そこにオレが居るとは当然思っていなかった訳で。入ってすぐ鍵をかけて、こちらを向いて靴を脱ごうとしたところでオレに気付いて、驚いて動きを止めた。  ――――……あ、オレ、泣いてるし。  とっさに俯く。  落ち着け。玄関は、電気をつけなければ、暗いから。  たぶん、大丈夫。見えてない。 「……わ……すれ物……?」 「……あ――――うん…… スマホ……」  久しぶりに、仁の声、聞いた。  咄嗟に、答えてくれたみたい。 「充電のところ?」  歩き出しながら聞くと、仁の、うん、という声。  リビングに入ってから、涙を拭いて。  充電器から仁のスマホを外して、玄関に戻った。 「……はい」  そっと差し出したスマホを、仁が受け取る。  まだ目は赤いかもしれないから、顔はあげずに。  今は顔をあわせたくないって言われてるから。  俯いてても、変じゃないだろうと、思いながら。 「――――……いってらっしゃい、仁」 「――――……うん」  俯いた視線の先で、  仁が、スマホをぎゅ、と、握り締めたのが、分かる。  ――――……会いたくなかった、かな。  ……こんなとこに、居なきゃよかった。  今更後悔しても、遅いけど。  ……仁が出てってすぐに、玄関に来てるとか……。  ――――……何をしてたと、思うんだろう。  どう思われてるんだろ。  あ、でも――――……いってらっしゃい、て、言えて、  ……それは、良かったかも。    ……ていうか、何してんだろ、仁。  何で、出て行かないのかな。  早く――――…… 行って、くれないかな。  ……なんかもう。   同じ空間に、居るのが、きつい。   

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