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第108話「幸せに?」
「……だって……何を話すんだろう……」
言ったきり、何も言葉が出てこなくて、黙っていると。
寛人は、またため息をついた。
「……ここまでの経緯、確認するぞ」
「……うん」
「……やっとの事で、告白しあうかもって日に、お前が男と寝てたのがばれて、仁がキレて、お前に――――…… キスされたのと? あと、イかされたんだっけ? ……それだけ?」
「……うん」
ていうか、全然それだけ、じゃないんだけど。
寛人は、それだけって言うんだよな……。
……こないだやっとの事で、この話をした時も、それだけ? て言われて、驚いていたら、別に無理矢理最後までされた訳じゃねえんだろとか言って……。
オレにとっては、全然「それだけ」じゃないんだけど……。
「……で、仁は、自分がキれたことと、あと彰がそんなことをしてたのがショック、で? もう、弟になるから忘れてとか言ったんだろ?」
「……うん」
「そのまま、もう、結構な日数、顔も合わせてない。……つか、何日?」
「……十日位……?かな」
寛人は、そこでまた、大きなため息をついた。
「――――……は。ほんとお前らって……」
はー、とため息の寛人に、ごめん、と俯く。
「……オレ、こないだ、仁と少し話したぞ……お前に聞いて、少し経ってから電話してみたんだけど」
「――――……なんか兄弟で世話になってごめん……」
そう言ったら、寛人は、ぷ、と笑った。
「は。今更。――――……で、電話したんだけど……」
「……うん」
「……まだ、全然整理できないから、彰とは話せないって言ってた。あいつ、今までで一番何にもしゃべんねえから、よく分かんなかったけど……」
「――――……ん」
寛人は、俯いてるオレを、のぞき込んだ。
「なあ、今朝会っちゃったって、何でだ? とことん顔合わせないように避けてたんだろ?」
「仁が出てってから、部屋を出て玄関に居たら――――……スマホ忘れた仁が、帰ってきちゃったんだよ」
そう言ったら、寛人が、マジマジと、オレを見つめた。
「……何で、仁が出てった後に、玄関なんかに居たんだ?」
……やっぱりそこ、突っ込まれるよね……。
普通、玄関になんて居ないもんね……。
もう隠せないので正直に言う。
「――――……入学式だったのに、行ってらっしゃいも言えなくて。何となく玄関に出たら……なんかもう、一緒に暮らさない方がいいのかなあとか思えてきて……ぼーと考えてたら帰ってきちゃって……」
段々俯いていくと、またまた、大きなため息が聞こえる。
……なんか、寛人に一生分のため息を、つかせてる気がする。
「――――……お前さー」
「……?」
「仁が出てった玄関に見送りに出る位なら、ちゃんと仁が居る時に行けよ」
「……だって顔、見たくないって……――――……」
「あーもう……ほんっと お前……」
はああああああ。
がっくりと、うなだれてしまった寛人。
……ああ、なんか……ほんとごめん……。
密かに落ち込んでいると。
「お前の事を好きだからだろ? ……好き過ぎるから、許せないんじゃんか」
「………」
「ほんとに、顔見たくないと思ってんの?」
「――――……うん。顔見たくないんだろうなって……」
「純粋に、お前の顔がもう二度と見たくないと思ってると、ほんっとに、思ってんのか?」
「――――……それは……分かんないけど……」
「分かるだろ、顔見たくないって。ほんとは見たいけど、今は、辛いから見たくないだけで……」
寛人が、やれやれ、と顔をしかめる。
「……何で分かんねえのかな。……お前の顔見たら、もう、避けてんのが我慢できなくなったんだろ」
――――……そんな風に言われて。
朝の、仁を想う。
……自分が泣いていたから、あまり顔は、見れなかったけど。
――――……声が。苦しそうだった。
「――――……寛人……」
「うん?」
「……仁てさ……オレとで、幸せになれると、思う?」
「――――……」
「……オレさ……オレとじゃない方が、仁は、幸せになれるんじゃないかなって、ずっと思ってて。もうずっと、それが消えなくて」
「――――……へえ。そんなとこまで、一応考えてるんだな」
「一応って……」
そう突っ込むと。
寛人は、ぷ、と笑った。
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