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第109話「好きだけど」

  「仁が幸せかどうかは、仁が決めるだろ」 「――――……」 「仁がお前と居たいから好きだっつってんのに、お前が勝手に考えて、拒否るのは違うだろうが」 「――――……」 「分かってるだろ?」  ……分かってるけど。  ……でも。……考えちゃうんだよ。  他の人との方が、まっすぐ、幸せになれるんじゃないかなって。  でもって、その部分、かなり大事な部分でさ……。   「――――……それに、仁の話なんか、もうどっちかしかないし。お前を諦めるって話か、諦めないって話か。どっちかだろ」 「――――……」 「……そんで、お前は?」 「――――……」 「……仁に何を言われるかは関係ねえぞ。お前は、仁に何て言いたい?」 「――――……オレは……」  そこで、何も言えずに口を閉ざす。 「仁の事、好きなの? 好きじゃねえの?」 「……好き……だけど」 「――――……兄弟に戻りたいの、戻りたくねえの?」 「……戻れるなら……戻った方がいいと思う」 「……戻れんの?」 「……戻りたい、んだけど……」  また黙るオレに、寛人は腕を組んで、斜めにオレを見つめる。 「……ほんとに戻れんの? お前、再会してから、仁の事好きだってほぼ認めてたじゃんか。 完全にその気持ち無くせねえなら、無理だと思うけど」  現実をまっすぐ、突き付けられると。  もう。  ……めっちゃ辛いし。 「――――………寛人……」 「ん?」 「オレ、もう、何も考えずに、兄弟がいい……」  ぱたん、とテーブルに倒れる。 「――――……あほ彰。倒れんなよ……」  はー。  寛人はまた、ため息。 「だって……もーだめ……。……オレもう、何も考えたくないかも」 「駄々っ子か……」 「……だって……」  ……好きだよ。  何も考えなければ、仁のことが好き。  仁と、二人きりの世界で、仁と二人だけで生きていけるなら、迷わず好きって言うよ。  ……でも、そんな事あるわけないし。  ………だったら――――…… 言えるわけないじゃん……。  しかも。  ――――……他の男と、してたの。  ……仁が、許してくれる気が、しないし。  ほんと、もー、何も、考えたくない……。 「お前、なんか――――……マジで、駄々っ子化してンな……」  寛人が苦笑い。 「もうさ。諦めて、全部話してくれば? それでダメならもう諦めれば」 「……全部なんて言える訳ないじゃん……ていうか、仁、弟になるって、いったし」 「――――……はー…… お前なあ……」  その時。  テーブルに置いておいた、オレのスマホが震えだした。  ディスプレイには、仁の名前。  ――――……出れない。 「……出ろよ」 「……今むり」 「……出ろって」 「……むり……」 「……オレ、出るぞ」 「えっ?」  びっくりしてる目の前のスマホを取られ、本当に寛人が電話に出てしまった。 「もしもし、仁? あぁ、オレ。……んー。彰、ちょっと用事があって、オレんち来てる。 仁、入学おめでと。――――……入学式終わったとこか?」  ――――……勝手に、出ないでよ……。  ……寛人……。  どうせ奪い返そうとしたって、届かないし。  ……無駄だと諦めて、見守っていると。 「仁は今から帰るけど、彰は何時に帰ってくる?だって」 「――――……」  何時。……何時だろう。 「……迎えに行く?て聞いてるけど?」  迎えは要らない。  ぶるぶると首を振る。 「じゃあ何時に家につく?だって」 「……っ……夕方……までには帰る」  言うと、寛人がそれを仁には伝えず、は?という怪訝な顔。 「……いますぐ帰れよ」 「……」  ブルブル。首を振る。 「はー。 ……ああ、仁? 彰、飯あんま食ってないみたいで、なんか痩せたみたいだからさ。 とりあえず、昼だけはめっちゃ食わせて帰らせるから。あと今、悩みすぎて、駄々っ子みてえになってるから」 「……っっっっ」  寛人……っっ。  今のセリフ全部取り消して……。  なんてことを言うんだと、どん引きして見つめると。  寛人はもう、すごく可笑しそうに笑いながら。 「ん? ああ。――――彰、電話、代わってだって」  ……代わりたくない。  こんなことを告げられた仁と話したくないけど、これ以上、寛人と話させていると、次何を言われるれのか……。  こんなことを告げられた仁と話したくないけど、これ以上、寛人と話させていると、次何を言われるれのか……。  スマホを寛人から奪い返すためにも、仕方なく、出ることにした。 「……もしもし……」 『……痩せたってほんと?』 「……全然。大丈夫」  少しの沈黙。 『……なあ、彰、オレ、待っててって言ったよね?」 「――――……」  また少し、黙った後。 『……何で、片桐さんとこ、逃げんだよ』 「――――……え」 『……っ……やっぱ、ムカつく――――……はー……』 「――――……仁……??」 『……もう無理。――――……彰』 「――――……」 『帰ってきたら―――…… 今度こそ、とことん、話すから。オレ、夕飯買って帰る。そっちで昼、ちゃんと食ったら、どこにも寄らず、まっすぐ帰って来いよ。分かった?』 「――――……うん……」  あんまりに、きっぱりはっきり言われて、もう頷くしかなく。  じゃああとで、と電話が切れた。 「――――……」  なんとも言えない。 「――――……早く帰れって?」 「……昼ご飯食べたらすぐ帰れって」 「じゃもう食べようぜ」 「――――……なんか仁に……ムカつくって言われた」 「ん? 何が?」 「――――……何で寛人んとこに逃げんのって……」  寛人は、ぷ、と笑って。 「正直だな。――――…… いいんじゃね?」  クスクス笑いながら、寛人が食事を広げ始めて。  手伝いながら。 「……やっぱりオレ、かえり……」 「帰りたくないとか言うなよ」 「――――……」 「……もう良いじゃん。 隠し事が無くなってちょうどいいだろ。先に全部バレて良かったんだよきっと」 「――――……」 「……あとは、お前が、どーしたいか、だろ。 話せ。 死ぬほど話してこい」 「――――……はー……」  もう。  話す前から、全精力、奪われてるのに……。  死ぬほど話すか……。  憂鬱すぎて全然食欲ないのに、寛人に無理やり食べさせられて。  ますますぐったりなランチタイムだった……。

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