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第113話「涙」

 ……オレは。  仁の事が好きなんだって、もう分かってる。  会った頃は本当に可愛くて、ただ大好きで。  小さいながらに、絶対守るって、思ってた。  可愛いから、カッコイイに変わっていって。  オレの身長を追い越す位、大きくなって。  守るって対象じゃなくなっていっても、仁はオレの側を、離れなくて。  見つめられるその熱が、嬉しかった。  仁もオレの事、好きなんだと思って。  執着が嬉しいと思う位には、好きだった。  でもあの頃は、そういう好きだとは、思ってなかった。  仁にも、オレにも、彼女がいたし。……そんな事、考えた事もなかった。  彰と呼ばれて、キスされるまで。  仁がそんな対象になるなんて本当に、思った事もなかった。  でも、おかしいと思うのに、仁の手をキスを振りほどけない、拒否できない自分が分からなくて。  結局、逃げて。連絡も取らず、自分の中から、一生懸命追い出して。  ……なのに、誰とも恋人にはなれずに。    心の中にいつも仁ばかり、浮かんで。  それを振り払って、でも夢にまで見て。  そんな時。仁が、現れて。  ……オレとのことは勘違いだったって、言った。  なのにオレは、仁を好きだと、思って……。  落としていた視線の先で、不意に仁の手が動いて、静かに頬に触れたように見えて。 「…………?」  ふ、と視線を上げたら。  濡れた仁の瞳と、視線が絡んで。  完全に。  固まって、しまう。 「……じ……」 「……っ……ごめ……」  オレの呼びかけを、遮って。  仁は、押し殺すみたいに、震える息を吸い込んだ。 「……ごめん。大丈夫」  ふ、と息を吐く。   「は。情け無い、オレ……」 「……」 「自分で敢えて言ったのに…… あき兄て呼んだら…… 思ってたより……辛かったっていうか。……なんか、びっくりしただけ」 「……」 「それだけ。……ほんとごめん、大丈夫だよ」  ……それだけって……  仁が、泣く、なんて。  ……胸が、痛すぎて。どうしようもないけれど。  オレが、ここで、泣くのは、本当に、違う。 「……オレが泣いても気にしなくていいよ。駄目だよ彰……目の前で泣いたからって、そんなのに惑わされちゃ」  まだ瞳は潤んでるのに、仁は、すこし、笑みを浮かべる。 「……っ……」  なんて答えて良いか、本当に分からなくて。自分が情けない。  何で。仁には、何も言えなくなるんだろう。  何で、いつも。 「……ちゃんと考えて。もし、無理でも……オレは時間が経てば立ち直るから。大丈夫。オレの事を心配して、かわいそうだからって、受け入れてくれなくて良い」 「……」 「彰が、オレと居たいかどうかだよ。オレを彰のものにしたい?したくない?……オレは、彰をオレのにしたいよ。全部を、オレのって、思いたい」 「……」 「……オレは、彰が一番大事だから……兄弟がどうとか、男がとか、そういうのより、彰が大事。誰になんて思われてもいいよ。彰がオレを好きでいてくれるなら、なんでもいい」 「……」  ここまで言ってくれても……オレ、何で…… 頷けないんだろ。  どうしたら……。  好きだって。ずっと、仁の事が、好きだって。  言って良いと、思えるんだろ。 「いいよ、彰」 「……」 「……この先、どうしてもオレとは無理だと思うなら…… はっきり、言っていいよ」 「……」 「オレ……弟に戻るなら、ここは出て行く。いつか完全にふっきるまでは、連絡も取らないと思う。大学で会っても近づかない。いつかふっきってちゃんと会えた時には、弟に戻ってるって約束するから。もうこれ以上は、悪あがきはしないから……」 「……」  オレが今度こそ逃げるんじゃなくて、ちゃんと無理だと言い切れば。  仁なら、きっとそうやって、今度こそちゃんと諦めて。言った通りに、ふっきってくれるんだろうと思う。  その方が、いいだろうって……どうしても、思う。それなのに。 「……でも…… オレは、弟には、戻りたくない」  まっすぐに見つめられて。  そう言われると。  すぐ揺らぐ。  ……もうほんと、オレ、どうしようもない。  やっぱり、受け入れられないと伝えて。  別々に暮らす。お互い吹っ切って、次に会う時は、兄弟。  それが、出来ないのであれば。  自分の気持ちをちゃんと、認めて。  好きだと伝えて…… 仁と恋人に、なる。  ……恋、人……? ……そんなの、なれる……?  もう、その二択しかない。  どちらを選ぶべきか、と聞かれたら、そんなの結論はとっくに出てる。     でも。仁の瞳を、見てると。   選ぶべき……が、揺らぐ。

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