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第114話「5分間」1/2
「仁……?」
「うん」
「……もう分かってると思うけど……オレも、お前の事、好きなんだけど……でも……」
「――――……」
「……男だし、兄弟だし……仁が、オレとでいいって思えなくて」
「――――……」
「……オレとずっと居てって……オレ、やっぱりどうしても言えない」
仁の顔が見れなくて。
俯いて、そう言った。
やっぱり、オレには、これ以外、言えない。
無理、なんだと思って。
そう、言った。
少し黙ってた仁が、不意に「彰」と呼ぶから、自然と顔を見つめたら、何だか少し嬉しそうに見えて。
……何でそんな顔してんだろ。
眉が寄ってしまう。
「彰……も一回言って?」
「……え? だから……オレとじゃ――――……」
「は? バカなの? ――――……そっちじゃねーし」
仁は、呆れたように言って。
立ち上がると、オレの隣に座った。
「オレの事、どう思ってるか、の方」
「……仁の事、好き……だけ」
「だけどは要らない」
「……仁の事、好き、……だけ」
「いらねえーっつの……ちゃんと、最後切って」
何度も遮られて、下を向いて口を閉ざしていると。
俯いた頬に手を伸ばして、ちょんちょんと指で触れてきた。
「言って、ちゃんと」
そう言った。
「仁の事、好き……」
だけど、を付けずに言ったら。
瞬間、抱き締められてしまった。
「――――……っ?……」
「初めて、言った」
何なんだ、と、藻掻いて離れようとしていたら。
嬉しそうに笑う仁に、どき、と胸が弾んで、固まってしまう。
「……っもう、知ってた、だろ?……」
「何となく、そうかなって思ってんのと、言われるのとじゃ、全然ちがう」
「っでも……好きでも、オレ……っ……」
「――――……」
「お前とずっと、とか……言えないって言ってる……」
「……んー……?……」
仁が眉を寄せながら、仕方なさそうに、オレを離す。
また隣の席に、完全にオレの方を向いて座ると、ものすごく近い真正面からじっと見つめてくる。
「つか、それは、何で?」
「……男同士だし……兄弟だし」
「……じゃあ、やっぱり無理って結論なの?」
「……」
「ほら。……そこでまた黙るし」
仁が、はー、とため息をついて、頭を掻く。
「……ほんとに無理なら、そこで頷けば、いいんだよ?」
「――――……」
「……無理って結論をオレに言えないなら、もう、――――……諦めたら?」
……諦める?
「……ほんと、何でなのかなあ……」
「……」
「オレにとって良いのかは、オレが決めるから。彰は、考えないでよ」
「……」
……そんな事言ったって。
……考えないでいられるわけ、ないじゃんか。
「……何で彰、そんな不満そうな、顔すんの?」
「……」
「……分かったよ、もう。オレを好きだけど一緒には居られない。それが結論って事でいいの? なら今、そう言って」
「……」
「今、言わないなら、もう諦めて」
仁が少し顔を近づけて、じっと見つめてくる。
視線を逸らそうとしてるのに、無理無理合わせられる。
「……さっきから、諦めるって……何を……」
分からなくて、そう言ったら。
仁が、ふー、とため息をついた。
「オレと離れる事、諦めろよって、言ってんの」
「……」
仁と、離れる事を、諦める?
「意味分かる?」
「――――……」
「オレと兄弟に戻るって、今口に出せないなら。諦めてもらうから」
「……」
「……今の彰が、オレとずっと居たいって、言えるとは、思えない」
「……」
「……すげえめんどくさいもん。――――……オレが、兄弟でも男でも、良いって言ってんのに。彰が好きだから一緒に居たいって言ってんのにさ。そっちは考えてくれないで、勝手に、オレが彰といちゃダメとか。……だからもう、逆で、考えてよ」
仁は、何かを吹っ切ったみたいに。
ポンポン、告げてくる。
「言えるなら、今言って。オレと兄弟に戻りたいって。オレともう離れたいって。五分だけ、待ってあげるから」
「……」
「五分言えなかったら。 彰は、オレと離れる事を諦めろよ」
「……」
「……五分経ったら……オレ、彰にキスするからね」
その言葉に、俯いた視線を、あげる。
仁は、ちらっと時計を見てから、まっすぐオレを見つめた。
「っ……なんで……そんな、急に――――……強気なんだよ」
そう言ったら。
仁は。当たり前じゃん、と、ふ、と笑った。
当たり前って、何。
そう思って、眉を寄せたら。
「彰が、オレを好きって言ったから」
「……」
「オレの期待とか、多分そうかもとかじゃなくて。ちゃんと、好きって言ったから。今決めるしかないと思うから」
「……でも、オレ、好きとは言ったけど……好きだけど……お前と居て良いって思えないって、言ったんだし……」
なんか、よく分からなくなってくる。
好きだから一緒に居たい、とか言った訳じゃない。
オレは、仁と、ずっと居ていいなんて、思えなくて。
好きだけど、居られない、もう結局、どうなって、どう考えたって、そうとしか、思えないって――――……もうそれを伝えるしかないと思って、言ったんだし。
「……オレとじゃ、できない事も、いっぱいあるし」
「――――……何、できない事って」
「……関係だって、隠さなきゃだし――――……男同士だってだけでもそうなのに、兄弟とか言ったら、バレたら……絶対、大変だし」
「いいよ。人と付き合ってることを公表したいなんてもともと思ってないしさ。まあ、オレは別に隠さなくてもいいけど、彰が嫌なら、ちゃんと隠すし。そんなことはどうでもいい」
「――――……結婚とか……出来ないし」
「……オレらですりゃいいじゃん。いつか」
「家庭とか……持てないし」
「……何言ってんの? 家庭ってなに? ……子供って事? そんな事言ったら、彰だってそうじゃん」
「オレは……」
「……なに?」
「オレは……いいけど――――……仁が……」
「何で彰は良いのに、オレはダメなの。ていうか、オレ、子供欲しいとか、言ったっけ? 彰を好きになってから、子供欲しいとか思った事もないし、絶対言ってないけど」
「言ってないけど……でも、オレとじゃ仁が……」
「つーか……もう……オレの事ばっか、言うなよ」
仁が少し声のトーンを落として、深く息を付いた。
片手を額に当てて、目を隠してしまう。
「思ってた以上に……彰が考えてる事って、オレの事ばっか。しかも、だめな方ばっか……はー。これじゃ、無理だよな……」
深い深い仁のため息に言葉を奪われて、黙ったオレに、仁は落ち着いた声で、ゆっくり、言った。
「彰がちゃんと結婚したい、子供欲しい、付き合ってることを周りに言いたいし、隠して生きてくなんて嫌だって言うなら、オレは諦める」
「――――……」
「……でも、オレのことを勝手に言ってるんだったら、オレは諦めない」
「――――……」
「オレのことはオレが決めるから。オレは、彰と居たい」
そこまで言って、ふ、と仁が時計に目をやった。
「あと、一分だよ。……すぐ言える言葉でしょ……兄弟に戻りたい、オレと離れたいって。それを今言うなら、オレは諦めるから」
「……」
変に、ものすごく、ドキドキする。
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