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第116話「好き」

「……キスしにくいから立って」  そんな風に言われて、腕をとられるままに立ったら、きつく抱き締められて。  めちゃくちゃ舌が絡む、深いキスをされた。 「……ん、ン……っ……」  深すぎて。息、出来ない。  仁との間に、少しの隙間もないみたいに抱き締められる。  頭の中は、ぼうっとして、もう浮いてるみたいな感覚。 「……じ、ん……」  唇が触れあったまま、仁を呼ぶ。  まだ、仁と、こんなキスしていいのかなと、頭の端っこにはあるのだけれど。  少しだけ唇を離して、オレを見つめた仁は。  本当に嬉しそうに笑っていた。 「……彰、オレの事、好き?」 「――――……」  つい、さっきまで、絶対無理だって思ってたのに。  絶対――――……仁とそんなことには、なれないって思ってたのに。  キスして抱き合ってるなんて、嘘みたいだけど。  だけど。  ……ほんとに、好きだって、思ってしまう。  好きだと、完全に認めてしまったら。  信じられない位、好きな気がしてくる。 「――――……」  仁の真直ぐな瞳を見つめたまま、うん、と頷くと。  仁は、ふ、と瞳を緩ませて。頬に触れた。  ちゅ、とキスされて、唇に触れたままで。 「好きって、ちゃんと言ってよ」    仁が囁く。 「……好き……だよ」  もう認めてしまったら、抗えなくなって。  ……もう、離れたく、なくて。 「……仁……」  名前を呼んだら、くす、と笑って。  まっすぐ見つめてくる。 「……そのまま、好きって繰り返してて?」  と、仁が言う。 「え?……ん っ……」  また深い、キス。  そのまま、繰り返して……?? 「……っ…… 好き……」  熱いキスの間で。すこし離れるたびに。  言われた通り、繰り返す。  ――――……好きって。  ……言いたかったんだって、思い知った。  言えるのが――――……嘘みたいに、嬉しい。 「……じんが…… ……好……」  何度目かに言おうとしたら――――……。  めちゃくちゃ、深くキスされて、塞がれた。 「んっ ……っ?」  息、出来なくて、んん、と半分、喉の奥で、悲鳴。 「……ふ、っは……なに ……」 「やっぱり無し。なんか……おさまりがつかなくなりそう」 「……っ……」  熱っぽい、仁の表情。  昔キスされてた時の仁を、思い出す。  あの時から変わらずに、  好きで、居てくれたんだなと思って。  胸が、締め付けられるみたいで。  重なってくるキスを、受ける。 「……彰…… おさまんなくなって、いい?」 「――――……」 「……もっとめちゃくちゃ、キスして……触って、いい?」  そんな風に言われて躊躇ってしまうのは、オレがいけないんだろうか。  でも……キスはできるけど。  それ以上、仁はほんとに、できるのかな……とか。 考えてしまう。 「……嫌? 彰」 「……嫌なんじゃ、なくて……」 「なくて、なに?」  抱き締められたまま、頬に手が触れる。言葉の先を促すみたいに唇に触れられる。 「……仁て……男……触った事ない、よね?」 「……ないよ」 「――――……」 「っあのさあ。まさかと思うんだけど」 「――――……」 「男に実際触ったら萎える、とか。言おうとしてる?」 「う――――……」  めちゃくちゃのぞき込んでくる瞳から、思わず視線を逸らすと。  仁は、はーーーーー、と大きなため息をついて。  がっくりと、オレの肩に額を沈めた。  あ。やばい……かな。  うー……ごめん……。 「……マジで、ほんとに分かってないな、彰」  ぼそ、と呟かれて。  瞬間。ふわ、と体が浮いた。 「っ……?」 「――――……じっとしてて」  仁の肩に乗せられるみたいな形で抱き上げられていて、  そのまま軽々運ばれて、仁の部屋のベッドに下ろされた。  ……っ…… オレ、一応、普通の男、なんだけど。  軽々運ばれ過ぎて、恥ずかしさに、目がくらむ。  うろたえてる間に、押し乗られて。  じっと、見つめられる。 「……っ……」  ベッドの上で、上に仁が乗ってて。  見下ろされる、とか。  胸が。  ……ドキドキして、痛すぎる。

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