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第119話「真っ白」

「……ん……っ」  仁の右手が、頬から首、鎖骨に触れて、そこから、胸に移って。  先端に触れられた瞬間、だった。 「あ……っ」  びくん、と、震えてしまって。 「……っ」  自分の反応に一瞬で、引いた。  ……触れられる事に慣れた反応だと、自分で思ってしまったから。  普通の男は、乳首なんかでこんな反応しないよな。  ……仁、嫌じゃないかな……。  盛り上がってた気持ちが、いきなり一気に引いた。絡んでくる舌に応える事もできなくなって、ただ、どうしようかと、瞬きを繰り返していると。  仁がキスしたまま、瞳を開けて。  オレの様子が変なのに、気付いたみたいで。 「――――……」  そっと、仁がキスを離した。  どうしていいか分からず、仁を見上げていると。  仁が、ふ、と短く息をついた。 「……彰、あのさ」 「………」  やっぱり。  ……嫌……かな?  嫌なドキドキで、仁を見上げていると。  仁はオレの手を引き、うなじに手を当てて、ゆっくりと体を起こさせた。   「ごめん。先にこれ言っとかないとだめだった」 「……」  改まって言って、仁が、まっすぐ見つめてくる。  何を言われるのか……めちゃくちゃドキドキしてしまう。 「離れてる間さ、オレも彰も、他の人としただろ……?」  その言葉に、静かに、少しだけ頷いた。 「オレこないだ……男と女じゃ違うって言っちゃったけど……誰にも触らせたくなかったっていう、ただの嫉妬と我儘で」 「――――……」 「オレも、彰を忘れようとして、違う人と付き合ってたし」 「――――……」 「……男に抱かれるのは全然違うとか……責めて、ごめん、な……?」  ……何て答えたらいいのか分からない。  女の子を抱いてたのと、仁以外の男に抱かれてたの。 ……どっちを仁に隠したいと、思ったかといったら……。圧倒的に、抱かれていた方だから。  それを考えれば、やっぱり、男が男に抱かれるっていうのは全然違うっていう言葉の意味は、分かりすぎる位に分かってしまう。 「今こうしてるってことと、これからの方が大事だろ? 今更どうしようもないことに拘るのはやめる。だから、彰もそうして」 「――――……」  ……ほんとに、忘れられる、のかな。  ほんとは、すごく……嫌なんじゃないのかな……。 「これからはもうずっと、オレは彰のだし。彰はオレのだし」 「――――……」  まっすぐな瞳で、仁が、オレの瞳を覗き込む。 「……女も男も……彰の気持ちイイ記憶全部、オレとの記憶に変えさせるから」  ほんとは絶対嫌なんだろうと、思うんだけど……。  でも、そんな風に言ってくれる仁に。  何だか。  ……泣いてしまいそうに、なって。 「……なんで、そんなに、自信あるんだよ……?」  思わずそんな風に少しふざけて言って、涙を誤魔化したら。  仁が、む、としてオレを見ると。ぐい、と顎を掴んできた。 「彰の事すげえ愛してるから。それは絶対誰にも負けないと思うし」 「……っ」  まっすぐ見つめてくる瞳に、ドキン、と胸が弾む。  ていうか。もうずっと、ドキドキしてるのに。  これ以上、ドキドキさせないでほしいんだけど……。 「……彰もずっとオレの事好きだったなら」 「――――……」 「オレとすんのが、絶対、一番気持ちいいに決まってるじゃん」  舌が深く絡んできて、長くキス、される。  ゆっくり、離されて。 「だからもう何も考えないで、気持ちイイならそう言って。いちいち気にしないでよ。オレが、全部気持ちよくするんだから」 「――――……」  なんかもう――――……。  こんなにこんなに、苦しいほど愛しいと思うのに。  こんなに長い間離れて……どうして、普通に生きていられたんだろ。  そんな風に思ってしまう。 「――――……」  再び、ゆっくりと、ベッドに倒された。  上に押し乗ってくる仁に、また囲われて。まっすぐに見つめられる。  ……あ――――……普通に、じゃないか。  なんか、ずっと、冷めてて。ずっと、心に仁がいるのを押し殺して。  ……そうだ、今まで、全然……普通じゃなかった。   「……仁――――……一回だけ……謝る」 「ん……?」 「全部、ごめんね……仁」  そう言うと、仁が、ふ、と優しく笑む。 「いーよ。オレも、彰のとこに来る勇気がなかったから……ずっと離れてて、ごめん」  そんな言葉に、何も言えずに、ぶるぶると、首を振る。  そんなの、仁のせいじゃない。  あんな風に逃げたオレのとこに、仁が、来れる訳ない。  今になって、来てくれたのだって、どれだけ、勇気が、要ったか。 「……仁……」  仁の肩に触れて、そのまま首に、抱き付くと。  また唇が重なった。  ……もう、何も考えなくていいんだと、思って。  真っ白に――――……なっていく。  ただ、仁の事が好き、という想いだけが。  心の中全部を支配してる、気がする。

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