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第127話「ドキドキ」

 仁が背後で、ふ、と笑った。 「……? 何?」 「――――……前も、さ」 「ん?」 「前も、彰、ドキドキしてたよね」 「……前って、ずっと前?」 「オレ、あの時言ったじゃん。 彰がドキドキしてるの知ってるって」 「――――……」 「覚えてない?」  ……覚えてる。  二年前も、ドキドキしてた。意味も分からないのに。  それを、仁本人に突っ込まれたんだから、覚えてない訳、ない。 「……覚えてるよ」 「ふーん……」  仁が、くす、と笑ってる。 「……あの時、オレの事、好きだった?」 「…………」 「いつから、オレの事、好きだった?」  仁が、すごくゆっくりした話し方で、そう、聞いてくる。  は、と息を付いて。  背を向けていられなくなって、仁の腕の中で、向きを変えた。……けど。 「ち、かすぎ……」  振り返ったら、思っていたよりも近すぎて思わず少し引く。 「何だよ、それ」  ぷ、と笑った仁に、後頭部を押さえられた。 「何で近いとダメなんだよ。つか、話すためにこっち向いてくれたんでしょ?」 「…………」  電気はついてないけど、月明かりで、仁の顔はちゃんと見える。  もう。ただでさえ、ドキドキしてるのに。  ……どうしてたら、普通に居られるのか、もう分かんないし。 「それで? ……いつから?」 「……今、思うとって話だからね……?」 「ん」 「……仁が好き、て言った時……かなあ……それまでも、大好きだったけど……弟としてだと思ってたし」 「――――……」 「……オレ、彼女居たのにさ。仁にキスされてから、あの子とできなくなっちゃって……それで、別れたし」 「そうなの?……え、何で出来なくなったの?」 「……キスしようとすると、仁の顔が浮かぶから。そしたら、他に好きな子出来たのかって、言われて……うまくいかなくなった、かな……」 「――――……」  仁は、じっとオレを見つめたまま、黙っていた。 「……仁も言ってたけど、何でキス、本気で拒めなかったかって考えると……」 「――――……」 「んー……でもやっぱり、いつからっていうのはほんとに分かんないよ。仁がこっちに来るまで、そんなことは思ってなかったし。でも、あの時も、ドキドキはしてたから……好き、だったのかもしれないかな……って今は、思う……こんな答えで、いい?」  言って、仁を見上げると。 「うん。……良い」  ふわ、と笑った仁に、むぎゅ、と抱き締められる。  仁の肩の辺りに顔がすっぽりはまってしまう感じで。 「オレは、多分、会った時から。……まあ会った時のことは覚えてないけど。彰と離れたくないって泣いたって聞いてるし」 「それはさすがに、違うんじゃ……」  クスクス笑って言う仁に、ふ、と笑ってしまう。 「…そういう対象になったのは中学。でも大好きすぎたのは、ずっとだから」  むぎゅー、と抱き締められる。 「……良かった。彰がオレのことを好きになってくれて」 「――――……」 「もうほんとどうしよう。嬉しくてやばい……。明日からずーっと抱き締めてるかも……」 「――――……」  ……何なんだろう。こんなにすごく嬉しそうな笑顔で言われちゃうと、なんて返したらいいか分からない。。  もう、ドキドキ通り過ぎて、痛いんだけど……。   「このままで、寝ていい?」 「……後ろからって言わなかったっけ……」 「……だって、可愛いし」  ……可愛いのは、仁だけど。  ……言わないけど。 「……目つむってれば、寝れるよ」  ちゅ、と額にキスされる。 「おやすみ、彰」 「……ん……おやすみ」  おやすみと、言ってからも、しばらくはドキドキしすぎでなかなか眠れなかったけど。  触れ合ったままで、黙ったまま過ごしている間に、うとうとしてきた。  昨日まで眠れてなかったのもあって。  ……さっきまでも、めちゃくちゃ、疲れたし。  いつのまにか、仁に抱き締められたままで。  眠りに、落ちていた。 ◇ ◇ ◇ ◇ 後書き。参考までに♡ 「前もドキドキしてた」は、18ページです(^^)

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