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第128話「寛人に報告」

 仁と、付き合っていくと決めたあの日。  翌日から大学が始まって、一気に忙しくなった。  毎日、学校とバイトと、それに仁は剣道も行って。  何だか慌ただしく過ごした、その週末の金曜日。  寛人と待ち合わせの店で、スマホを見てると、仁からメッセージ。 『混んでて、今休憩。あと一時間半であがるから、待っててね』 「うん。頑張って」  入れると、OKスタンプが送られてくる。 「彰」  寛人の声が背後からした。  あ、寛人、と笑顔で振り返ると。 「なんか、お前に会うの、ほんの数日ぶりだけど」  寛人は、くす、と笑った。 「吹っ切れた顔、してんな」 「え。……そう、かな?」 「してる。こっちに出て来てから、初めて見るかも」  言いながら、寛人がオレ目の前に座った。 「飲み物、何頼む? ビール?」 「ああ」  店員さんにビールを注文をして、メニューを寛人に渡す。 「寛人の好きに頼んで。――――……仁、一時間半くらいでバイト終わるって」 「その前に色々聞いとくか」  クスクス笑う寛人に、苦笑いが浮かぶ。  ビールが運ばれてきて、寛人が料理を数点頼んだ。店員さんが居なくなると。二人でビールを持って。 「はい。じゃあ……恋が実った事に。カンパイ」 「……恥ずかしいんだけど」  オレはそう言いながら、かち、とグラスを合わせた。 「まだオレ、付き合う事になった、しか聞いてねえんだけど」 「だって、電話とか、文字じゃ伝えきれないし」 「……まあとりあえず話してみな? どーやって、まとまったの、お前ら」  そう言われて、んーと、考えてから。 「……オレさ」 「ん」 「最後の最後まで、やっぱり、無理だと思ったんだ。それで、好きだけど無理、て言ったんだ」 「お、最後まで無理って言ったか」 「うん。……でも、そしたら、仁が……」 「ん」 「……オレが、初めてちゃんと好きって言ったって」 「……あいつ、相当ポジティブだな」  くっと、寛人が笑う。 「……兄弟に戻るって、五分以内に言えないなら、もう、仁の側、離れることを諦めろって言われて」 「ん、それで?」 「……そしたらオレ、戻るって、言えなくて」 「――――……」 「……兄弟に、戻りたくないって言っちゃって」 「ふうん……」  寛人は面白そうに、瞳を細めて、オレを見つめてくる。  「五分て制限されて、やっと認めたんだな」 「うん。こんなに長いこと考えてきたのに……オレ、結局、あの五分で決めたんだよね……ちょっとバカみたいだよね」 「今まで長い事考えても、結局答えが出なかったって事は、そういうことだって自分で分かったんだろ。考えてきたことは、無駄じゃない」 「――――……」 「それに、はっきり無理って仁に言えない時点で、それで本気で何とも思ってないなら、ヤバいからなーお前。もともと好きだから、あんなに迷ってたんだろうし」 「……」 「あとはお前がそれを認めるか認めないかってとこだったけど……良かったな、認められて」 「……うん」  頷くと、寛人はクスクス笑う。ビールを一口飲むと、少し顔を寄せてきた。 「ん? 何?」 「……もう、仁と寝た?」 「………ッ」  かあっと赤くなったオレに、寛人は「あーもう良い」と笑った。 「もう分かったから」 「…………っ」 「まあ。もうあれから何日か経つし、仁が何もしない訳ねえよな。愚問だった」 「…………っ」 「いつしたの?」 「……っっっ…………あの、日」 「ああ。もう、初日?」 「――――……っ」 「もしかして、認めてすぐ?」 「――――……」  もう俯いたまま、頷くしかできない。 「……まあ、そうだろうな。何年我慢してたんだっつー話だもんな、あいつにとったら」 「……………っ」 「何年だ? そういう欲が出るのが中学前後として……六年越し位か。うわ、やばそうだな……」  ……確かに、仁、相当、ヤバい感じで迫ってくるけど……。  そんなのヤバいとか、寛人に、言えないし。  そっか、六年分だから、あんなにヤバいのか……?  寛人の言葉で、少し納得してしまいそうになる。  毎日毎日キスされて、抱き締められて、触れられて。  ……もう、熱すぎて、断る事は、叶わない。 「――――……でも、よく、吹っ切ったな」 「……え?」 「お前があいつに全部許すとか、ほぼ絶対ぇ無理だと思ってた」 「……そう、だよね……なんでだろ……」  少し笑ってしまう。  何でか良く分からない。   絶対無理だって、最後の時まで、思ってたから。 「……そこで笑えるんだな」  寛人がそう言って、笑う。 「なんかほんと、吹っ切ったんだな?」 「どうだろ。……絶対大丈夫とは、言えないんだけど……」 「弟だから、っていうのは、今はもう悩んでねえの?」 「たまに……少し、思うんだけど……」 「思うんだけど?」 「……もう……最後まで受け入れちゃったから、さ。……ここから誤魔化したって無駄だなって思うから、前みたいには、悩んでない」  そう言ったら、寛人は、ふ、と笑った。 「なるほどな。それでもう初日に最後まで突っ切ったのかなー仁」 「……それは、知らないけど……」  突っ切ったとか、なんかやめて……  苦笑しながら寛人を見上げると。面白そうな顔で、クスクス笑う。

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