128 / 135

第128話「寛人に報告」

 仁と、付き合っていくと決めたあの日。  翌日から大学が始まって、一気に忙しくなった。  毎日、学校とバイトと、それに仁は剣道も行って。  何だか慌ただしく過ごした、その週末の金曜日。  寛人と待ち合わせの店で、スマホを見てると、仁からメッセージ。 『混んでて、今休憩。あと一時間半であがるから、待っててね』 「うん。頑張って」  入れると、OKスタンプが送られてくる。 「彰」  寛人の声が背後からした。  あ、寛人、と笑顔で振り返ると。 「なんか、お前に会うの、ほんの数日ぶりだけど」  寛人は、くす、と笑った。 「吹っ切れた顔、してんな」 「え。……そう、かな?」 「してる。こっちに出て来てから、初めて見るかも」  言いながら、寛人がオレ目の前に座った。 「飲み物、何頼む? ビール?」 「ああ」  店員さんにビールを注文をして、メニューを寛人に渡す。 「寛人の好きに頼んで。――――……仁、一時間半くらいでバイト終わるって」 「その前に色々聞いとくか」  クスクス笑う寛人に、苦笑いが浮かぶ。  ビールが運ばれてきて、寛人が料理を数点頼んだ。店員さんが居なくなると。二人でビールを持って。 「はい。じゃあ……恋が実った事に。カンパイ」 「……恥ずかしいんだけど」  オレはそう言いながら、かち、とグラスを合わせた。 「まだオレ、付き合う事になった、しか聞いてねえんだけど」 「だって、電話とか、文字じゃ伝えきれないし」 「……まあとりあえず話してみな? どーやって、まとまったの、お前ら」  そう言われて、んーと、考えてから。 「……オレさ」 「ん」 「最後の最後まで、やっぱり、無理だと思ったんだ。それで、好きだけど無理、て言ったんだ」 「お、最後まで無理って言ったか」 「うん。……でも、そしたら、仁が……」 「ん」 「……オレが、初めてちゃんと好きって言ったって」 「……あいつ、相当ポジティブだな」  くっと、寛人が笑う。 「……兄弟に戻るって、五分以内に言えないなら、もう、仁の側、離れることを諦めろって言われて」 「ん、それで?」 「……そしたらオレ、戻るって、言えなくて」 「――――……」 「……兄弟に、戻りたくないって言っちゃって」 「ふうん……」  寛人は面白そうに、瞳を細めて、オレを見つめてくる。  「五分て制限されて、やっと認めたんだな」 「うん。こんなに長いこと考えてきたのに……オレ、結局、あの五分で決めたんだよね……ちょっとバカみたいだよね」 「今まで長い事考えても、結局答えが出なかったって事は、そういうことだって自分で分かったんだろ。考えてきたことは、無駄じゃない」 「――――……」 「それに、はっきり無理って仁に言えない時点で、それで本気で何とも思ってないなら、ヤバいからなーお前。もともと好きだから、あんなに迷ってたんだろうし」 「……」 「あとはお前がそれを認めるか認めないかってとこだったけど……良かったな、認められて」 「……うん」  頷くと、寛人はクスクス笑う。ビールを一口飲むと、少し顔を寄せてきた。 「ん? 何?」 「……もう、仁と寝た?」 「………ッ」  かあっと赤くなったオレに、寛人は「あーもう良い」と笑った。 「もう分かったから」 「…………っ」 「まあ。もうあれから何日か経つし、仁が何もしない訳ねえよな。愚問だった」 「…………っ」 「いつしたの?」 「……っっっ…………あの、日」 「ああ。もう、初日?」 「――――……っ」 「もしかして、認めてすぐ?」 「――――……」  もう俯いたまま、頷くしかできない。 「……まあ、そうだろうな。何年我慢してたんだっつー話だもんな、あいつにとったら」 「……………っ」 「何年だ? そういう欲が出るのが中学前後として……六年越し位か。うわ、やばそうだな……」  ……確かに、仁、相当、ヤバい感じで迫ってくるけど……。  そんなのヤバいとか、寛人に、言えないし。  そっか、六年分だから、あんなにヤバいのか……?  寛人の言葉で、少し納得してしまいそうになる。  毎日毎日キスされて、抱き締められて、触れられて。  ……もう、熱すぎて、断る事は、叶わない。 「――――……でも、よく、吹っ切ったな」 「……え?」 「お前があいつに全部許すとか、ほぼ絶対ぇ無理だと思ってた」 「……そう、だよね……なんでだろ……」  少し笑ってしまう。  何でか良く分からない。   絶対無理だって、最後の時まで、思ってたから。 「……そこで笑えるんだな」  寛人がそう言って、笑う。 「なんかほんと、吹っ切ったんだな?」 「どうだろ。……絶対大丈夫とは、言えないんだけど……」 「弟だから、っていうのは、今はもう悩んでねえの?」 「たまに……少し、思うんだけど……」 「思うんだけど?」 「……もう……最後まで受け入れちゃったから、さ。……ここから誤魔化したって無駄だなって思うから、前みたいには、悩んでない」  そう言ったら、寛人は、ふ、と笑った。 「なるほどな。それでもう初日に最後まで突っ切ったのかなー仁」 「……それは、知らないけど……」  突っ切ったとか、なんかやめて……  苦笑しながら寛人を見上げると。面白そうな顔で、クスクス笑う。

ともだちにシェアしよう!