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第129話「悩む隙も」
「あいつはどうした? ……男の」
「あ、亮也?」
「ん。どうなった?」
「亮也は……うん、話した」
「全部話したのか?」
「……まあ途中でバレてたから……話しやすかったってのもあるけど……」
「バレてたのか?」
「うん……会ったことがあってさ、亮也にはバレてて……。付き合う事になったって言ったら、結構普通に、じゃあ別れるまでは友達に戻る、だって」
「……変わってんな?」
「うん。……でも、他の女の子達にもそういう相手居るし。どこまで本気か、ずっと分かんないままだけど。 今はもう、完全に友達。変なことも言わないし、誘ったりもしてこないし」
「ふーん」
「でも、授業とかも一緒だからさ――――……仁がたまにムッとしてるけど、まあもうしょうがないと思ってくれてる感じ、かなあ……仁が嫌そうだから、なるべく二人きりではいないようにしてるけど……もう二人になっても、オレと亮也、今はほんとに友達なんだけど…… まあ、そんな感じ」
最後まで聞くと、寛人はふ、と笑って頷いた。
「じゃあ、大体全部、落ち着いたんだな?」
「うん。ああ、でも――――……それがさあ……」
「……?」
オレが、深いため息をついたので、寛人は首を傾げた。
「まだ何かあんの?」
「……オレ来週末、実家に帰らなきゃいけなくなってさ」
「何で?」
「仁がさ……ほんと信じられないんだけど……」
「ん?」
「父さん母さんにさ。 オレの事が本気で好きだから、もしも彰が受け入れてくれたら、許してって――――…… ずっと、言ってたんだって」
「……はー……?」
「……受け入れてもらえなかったら、諦めるから。でも受け入れてくれたら、その関係を、許してって。受験と並行して、家の中相当話し合いの日々だったらしいけど……二週間位はプチ修羅場だったって、仁が言ってたけど……オレ、全然知らなかったし……」
「なあ、迫られてる時に、 父さんと母さんは許してくれてるからって言って迫られたわけじゃないよな??」
「そんな事一言も言われてないよ。ていうか、言われてたら、ますます大混乱だよ、無理だよ……」
「じゃあなんで事前に言ってからこっちに来たんだ?」
「良く分かんないけど……そうなった次の日に、言われたの。父さん達は許してくれてるから、もうそこは悩まなくていいからねって」
そう言うと、少しの間黙っていた寛人は、可笑しそうに笑い出した。
「ははっ。……ほんと、面白いな、あいつ」
「面白くないよ、ほんとにびっくりしたし。最初、何言ってるか分かんなかったし」
オレが困って言うと、寛人はおかしそうに笑う。
「で、付き合う報告をしに実家に帰んの?」
「……そうらしいんだけど……」
「そっか」
「でも、オレ、もう昨日父さんとは電話で話した。すぐ隣に母さんも居て」
「何て?」
「仁が本気だったから、あとはもう彰に任せようと思ってたんだ、って言うんだよね……こないだ父さんが泊りに来た時、オレの態度で少し悟ったらしくて、もしかしたら、仁の想いが叶うかもって、うちで話してたらしくて……」
「お前の親って……すげえな」
「……すごいよね。よく分かんないよ。ていうか……そんなの親に話してる仁が、全然分かんない……」
「……まあ。仁の方は、多分さ……」
「うん?」
「色々覚悟したかったって事じゃねえの」
「――――……」
「うまく行くって限らねえのに。ていうか、ほぼ無理な確率だったのに、親に言うとか。すげえ覚悟だよな」
「……オレには絶対できない」
「そうだろうな」
クッと笑い出して、寛人が肩を竦めてる。
「まあとにかく、お前は仁には勝てねえっつーことだな」
「……その結論ってすげー悔しいけど」
「はは。だって、なんか覚悟が違うっつーか…… もういつでも彰が最優先っつーか。勝てる気、しなくねえ?」
「――――……」
……しないかな。
ため息をついてると、寛人がクスクス笑う。
「まあでも……いいんじゃねえ? 彰みたいに、周りが気になって、勝手にどんどん悩んでくような奴は、そんな感じの奴の方が」
「――――……」
「悩む隙も、くれなそうじゃんか、あいつ」
「――――……」
確かに。
……あの日から、仁には遠慮とかまるで無くて。
めいっぱい好き、て言われて。
愛されて。
でもって、こっちも、言わされる。
ごまかしようが無い位に。毎日、思い知らされるというか。
「お前には、合ってる気がする」
クスクス笑いながら、寛人に言われて。
少し肩を竦めて、苦笑い。
「仁は、誰とでもうまくやれると思うけどね……」
「……またオレなんかと、って続くのか?」
「……続けないよ」
クスっと笑ってしまう。
前なら……オレなんかと居ないで、他の誰かといた方が、って言ったと思うけど。
「もう言わないから。心配しないで、寛人」
「……ん」
ふ、と寛人が笑う。
今はもう、とにかく、仁が、オレを好きなのが……嫌ってほど分かるから。
仁が居たいのがオレなら、オレはもう、悩まないで、一緒に居ようって思えてる。
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