130 / 135
第130話「寛人と仁」
それから、しばらくして、仁がやってきた。
「ごめん、店が混んでて抜けれなくて。遅くなっちゃった」
「お疲れ」
オレが見上げると、仁はふ、と笑って頷いて、オレの隣に腰かけた。
「片桐さん、こんばんは」
「ああ。……つか……よかったな?」
「……はい。……色々すみませんでした」
「ほんと。二人そろって、色々な?」
寛人の言葉に、仁と顔を見合わせてしまう。
「ありがとうございました」
仁が苦笑しながら、寛人に言う。
「うまくいくといいなと思ってたけど……無理かなとも思ってたから。こんな日が来るとはな? 執念だなあ?」
クスクス笑う寛人に、仁は、そうですね、と笑ってる。
「お前が来る前に、散々ノロケは聞いたから。大体は分かった」
「ノロケ? 何話したの?」
ちら、と視線を向けられて。 さあ……?と誤魔化してると。
ふ、と仁が笑う。
「今日はまだそんなに飲んでないんだね、彰」
「うん」
「いいよ、今日は、連れて帰ってあげられるし、飲んでも」
「もう、そんなに酔っぱらいたいって気分じゃないし」
仁の言葉に、そう答えると。
寛人がぷ、と笑った。
「だよなあ? 一番の悩み事、消えたんだもんな」
寛人のセリフに、仁が、え、とオレに目を向けてくる。
「彰が酔っぱらってたの、オレとのことが原因なの?」
「原因って言ったらなんか言葉が悪いていうか……」
「こないだ彰が酔っぱらったのは、あれだもんな? キスされたり抱き締められてたことを思い出して、そんなの考えたくないのに、とか」
「う、わ、 何言ってんの、寛人っ」
わーわー、と仁の耳を塞ぐ。
クックッと笑う寛人と。
耳を塞いでるオレの手を取って、ぷ、と笑ってる仁と。
オレは真っ赤になって、がっくり、テーブルに突っ伏した。
「そうなんだ。 ていうか、そん時それを言ってくれてたら、二週間もつらい日々送らなくて済んだのにな」
ふー、と仁がため息をついてる。
「……言える訳ないじゃん。……仁は完全に、弟の顔、してたし」
「……必死でしてたんだけどね、それ」
クスクス笑ってる仁。
「やっぱり素直に生きないと、だめですよね」
「そーだな」
仁と寛人が、うんうん言い合ってるのを横目に、はあ、とため息。
「……仲いいね、2人」
と、ちょっと嫌味で言ったのに。
「結構気が合うんだよなぁ? 仁」
「そう、オレ、もともと彰のことで嫉妬してただけだし」
なんか二人が仲良いと、敵わない気がして、ちょっとやだな……。
そんな風に思いながら見ていると、仁はお茶、寛人はビールで、二人で乾杯してる。
「ん、彰」
クスクス笑いながら、仁がオレにグラスを向ける。
「……お疲れ、仁」
「うん」
かち、とグラスを合わせると。仁がオレを見て、目を細める。
なんか。
……好きなんだけど。……仁。
優しい瞳が。
めいっぱい、好きって、言ってくれてるみたいで。
すっごく照れる。
「……なんかお前らがいちゃいちゃしてるとこ、こうして見る日が来るとは、ほんとに思ってなかったわ」
寛人に笑み交じりで、しみじみ言われて。考えてることを見透かされたみたいで、恥ずかしくなる。
「っ……いちゃいちゃ、なんてしてないし」
「そーだよ。こんなのいちゃいちゃに入んないよね、彰?」
「ああ、家ではもっと、いちゃいちゃしてるってことか」
はは、と笑う寛人に、うん、とか答えてる仁。
「……二人置いて、帰っていい? オレ」
二人共、ぱ、とオレを見て、面白そうに笑う。
「そういやこっちで仁と初めて会った時、そんな事したよな」
「ですね。彰に出てってもらって……今考えると、相当変ですね」
……今考えなくたって、相当変だけどね。
心の中で言いながら、ほんと楽しそうに話してる二人を見て。
ま、いっか。
仁、すごく楽しそうだし。
結局、そう思って。
ふ、と笑ってしまう。
ともだちにシェアしよう!