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第130話「寛人と仁」
それから、しばらくして、仁がやってきた。
「ごめん、店が混んでて抜けれなくて。遅くなっちゃった」
「お疲れ」
オレが見上げると、仁はふ、と笑って頷いて、オレの隣に腰かけた。
「片桐さん、こんばんは」
「ああ。……つか……よかったな?」
「……はい。……色々すみませんでした」
「ほんと。二人そろって、色々な?」
寛人の言葉に、仁と顔を見合わせてしまう。
「ありがとうございました」
仁が苦笑しながら、寛人に言う。
「うまくいくといいなと思ってたけど……無理かなとも思ってたから。こんな日が来るとはな? 執念だなあ?」
クスクス笑う寛人に、仁は、そうですね、と笑ってる。
「お前が来る前に、散々ノロケは聞いたから。大体は分かった」
「ノロケ? 何話したの?」
ちら、と視線を向けられて。 さあ……?と誤魔化してると。
ふ、と仁が笑う。
「今日はまだそんなに飲んでないんだね、彰」
「うん」
「いいよ、今日は、連れて帰ってあげられるし、飲んでも」
「もう、そんなに酔っぱらいたいって気分じゃないし」
仁の言葉に、そう答えると。
寛人がぷ、と笑った。
「だよなあ? 一番の悩み事、消えたんだもんな」
寛人のセリフに、仁が、え、とオレに目を向けてくる。
「彰が酔っぱらってたの、オレとのことが原因なの?」
「原因って言ったらなんか言葉が悪いていうか……」
「こないだ彰が酔っぱらったのは、あれだもんな? キスされたり抱き締められてたことを思い出して、そんなの考えたくないのに、とか」
「う、わ、 何言ってんの、寛人っ」
わーわー、と仁の耳を塞ぐ。
クックッと笑う寛人と。
耳を塞いでるオレの手を取って、ぷ、と笑ってる仁と。
オレは真っ赤になって、がっくり、テーブルに突っ伏した。
「そうなんだ。 ていうか、そん時それを言ってくれてたら、二週間もつらい日々送らなくて済んだのにな」
ふー、と仁がため息をついてる。
「……言える訳ないじゃん。……仁は完全に、弟の顔、してたし」
「……必死でしてたんだけどね、それ」
クスクス笑ってる仁。
「やっぱり素直に生きないと、だめですよね」
「そーだな」
仁と寛人が、うんうん言い合ってるのを横目に、はあ、とため息。
「……仲いいね、2人」
と、ちょっと嫌味で言ったのに。
「結構気が合うんだよなぁ? 仁」
「そう、オレ、もともと彰のことで嫉妬してただけだし」
なんか二人が仲良いと、敵わない気がして、ちょっとやだな……。
そんな風に思いながら見ていると、仁はお茶、寛人はビールで、二人で乾杯してる。
「ん、彰」
クスクス笑いながら、仁がオレにグラスを向ける。
「……お疲れ、仁」
「うん」
かち、とグラスを合わせると。仁がオレを見て、目を細める。
なんか。
……好きなんだけど。……仁。
優しい瞳が。
めいっぱい、好きって、言ってくれてるみたいで。
すっごく照れる。
「……なんかお前らがいちゃいちゃしてるとこ、こうして見る日が来るとは、ほんとに思ってなかったわ」
寛人に笑み交じりで、しみじみ言われて。考えてることを見透かされたみたいで、恥ずかしくなる。
「っ……いちゃいちゃ、なんてしてないし」
「そーだよ。こんなのいちゃいちゃに入んないよね、彰?」
「ああ、家ではもっと、いちゃいちゃしてるってことか」
はは、と笑う寛人に、うん、とか答えてる仁。
「……二人置いて、帰っていい? オレ」
二人共、ぱ、とオレを見て、面白そうに笑う。
「そういやこっちで仁と初めて会った時、そんな事したよな」
「ですね。彰に出てってもらって……今考えると、相当変ですね」
……今考えなくたって、相当変だけどね。
心の中で言いながら、ほんと楽しそうに話してる二人を見て。
ま、いっか。
仁、すごく楽しそうだし。
結局、そう思って。
ふ、と笑ってしまう。
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