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第131話「愛しい」

「じゃーね、寛人」 「おう、気を付けて帰れよ。 あ、仁」 「はい?」 「彰、急に寝るから気をつけろよ」 「……ヤバいですね、了解です」  そんな二人のやり取りに、オレは、首を振る。 「寝ないよ、今日は大丈夫」 「とか言ってしゃがみ出したら、ヤバいから」 「分かりました」  仁が苦笑い浮かべながら、オレを見つめてくる。 「じゃまた、片桐さん」 「おう。実家行くの頑張れよー」 「まあもう知られてることを話しに行くだけなんで」  平然と言ってる仁に、オレはまた複雑な顔をしてしまう。それに寛人が気づき、ぷ、と笑う。 「彰、頑張ってこい。そこクリアしたら、大分精神的に楽だろ」 「……そこのクリアが、かなりきついけどね……」 「頑張ろ、彰」  クスクス笑いながらの仁に、肩を抱かれる。 「頑張るけど」  急に近くなった仁に戸惑いまくりで頷いてると。  寛人がクスクス笑って、オレと視線を合わせてくる。 「じゃあまたな」 「うん。またね」  寛人が改札に消えて行くのを、手を振って見送る。 「――――……楽しかった? 仁」 「うん、楽しかった」 「そっか。……楽しそうだったもんね」  クスクス笑いながら、オレが仁を見上げると。  仁は、くい、とオレの腕を引いた。 「帰ろ、彰」 「ん」  ゆっくり、歩き始める。 「寝そうになったらおんぶしてあげるよ」 「今日そんなに飲んでないってば」 「おんぶしたいけどな」 「さすがに重いよ」 「重くても良いし。ていうか、その重さが幸せなんじゃねえの?」 「……意味がわかりません」  困って返すと、仁は、ぷ、と笑う。 「だって片桐さんには何度もおぶわれてるんだろ?」 「……何それ。ヤキモチ……??」 「そう……なんか、信頼してるっぽくない?」  仁の言葉に、んー?と、首を傾げてしまう。 「それは……信頼とかじゃなくてさ」 「なくて?」 「……覚えてない位だし。ほんとひどい、ただの酔っ払いだと思うよ?」  クスクス笑うオレに、仁は、それでもさ、と首を振る。 「それでも、やっぱり、あの人なら連れて帰ってくれるって思うから、そこまで酔っ払えるってことだろ? やっぱりちょっと妬けるかも」 「――――……」  そういうこと、なのかなぁ?  ……まあそう言われたら、確かに、寛人と話してる時ごくたまに、酔っ払っちゃってたけど。  寛人以外に仁の話できなかったし、仁の話をしなくても、寛人は知っててくれて、結構飲んでても付き合ってくれて。  ………まあ、確かに。 信頼してるからこその、酔っ払いではあったけど。 「んー……でも、結局はただの酔っ払いだったから、絶対寛人は迷惑だったと思うし」  苦笑いのオレに、仁も、少し肩を竦めて見せる。 「まあ今更、片桐さんに嫉妬っていうのもちょっと違うんだけどさ」  まあ、それはそうだよね。  だって、もう、オレと寛人に何もないのも分かってるだろうし。  ヤキモチなんか妬くだけ無駄と言うか。必要ないし。 「多分それでヤキモチとか寛人に言ったら、超迷惑に酔っぱらわれて重いのおぶって帰った上に、仁に妬かれるとか……すごい嫌がると思うけど」  寛人のものすごく嫌がるのを想像して、クスクス笑ってしまう。 「彰、おんぶさせて?」 「え」 「したい」 「え? だって、オレ今平気……」 「平気とかじゃなくて、したい。はい」  仁が、目の前にしゃがんでしまうと、オレは、数秒躊躇った後。 「……重かったら下ろしてよ?」 「うん。分かった」  笑いを含んだ声で仁が頷く。  そっと、腕を仁の肩に触れさせて、そのまま、前にまわす。  後ろに仁の手が回ってきて、すぐにそのまま、おんぶされて、仁が立ち上がった。 「――――……」 「この時間ならさ、おんぶしてても、酔っ払いだって思ってくれると思うし」 「……重くないの?」 「うん。平気。……つか、嬉しいってだけかも」  クスクス笑いながら仁が言う。  ……何だかな。仁。 「――――……おっきくなったねー、仁……」 「はは、何、それ」  仁が、オレを背負って歩きながら、おかしそうに笑う。 「……何で、オレよりおっきくなるかなあ?」 「願ったからじゃねえかな」 「何を?」 「早く彰より大きくなりたいってずっと思ってたし」 「そっかー……」  ずっと、かー……。  何だか、ものすごく愛しくなって、オレは、きゅ、と抱き付く。 「……重い?」 「平気。てか、抱き付いてくれるの、すげえ好き」 「……うん」  ふ、と笑ってしまう。  オレも。抱きつけるの、嬉しい。 「――――……仁……」 「んー?」 「……好きだよ、仁」 「――――……」  仁がぴく、と固まって。  はー、とため息をついてる。 「仁??」 「……なんかずるくない?」 「え? ずるい?」  なんで?と思ってると。仁が、もう一度ため息を付きながら。 「そんな背後で言われてもさあ。しかも、外だしさあ。キスしたくてもできねーし。そんなとこじゃなくて、帰ったら言ってよ。……そしたら、めいっぱい、キスするから」  笑みを含んだ、優しい声に。  ふ、と笑ってしまう。 「ん。……分かった」  そう返したら。  え、と仁が笑う。 「分かったって言った?」 「うん」 「何? 酔ってんの?」  クスクス笑う仁。 「今、分かったってちゃんと聞いたからね。ちゃんとほんとに言ってよ?」 「……うん。分かった」  オレ、そんなにいつも言ってないかなあ? と、おかしくなるけど。  まあ、仁に比べたら、全然言ってないから、そのせいかなあ、なんて思いながら、ふ、とオレは笑む。 「重いでしょ? 降りるよ」 「いいから。このままひっついてて」 「――――……」 「ぎゅ、てしててよ」    ああ。もう。  ――――……ほんとに。愛しいなあ。仁。    胸が締め付けられるみたいになりながら。  回した腕でもう一度、くっついて。抱き付いて。 「大好きだよ、仁……」 「っ……だから。帰ったら言って」  まったくもう、と呆れたように言われて。  オレは、また微笑んだ。

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