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第3.3話
決して大きな声を立てる者はいなかったのだけれど、広間を埋め尽くす人々の囁き声はザワザワと波のように広がり続けている。
「まだ帰ってはいけないなのかしら?」
体一つ分程の間隔を開けているとは言え、前後左右を取り囲まれた状態が窮屈で、アリオナは己と同じように左隣に立つレオノアに声を掛ける。
「駄目に決まってるでしょう。そもそも面白い見世物があるって言ったのは、アリオナでしょ」
「うん・・・そうだけどさぁ」
双子の妹のレオノアに睨まれたアリオナは歯切れ悪く言葉を返す。
「私、見世物なんて言ってないよ。聖女様が異界からお輿入れ頂くらしいって、聞いただけだし。儀式を見に行くって父様を説得したのはレオノアでしょ」
「何よ、アリオナは聖女様に会えるかもしれないチャンスを不意にしても良かったのね?」
「そうは言ってないじゃない。ただちょっと暑いなって思ったから」
謁見の間が王城で一番広いとは言え、数百人が密集している状態であれば、人いきれだけでも室温が上がるはず。実際、二人の目の前に立つ(恰幅が良すぎて二人分のスペースを要している)紳士はジャケットを脱いでいるが、汗びっしょりでシャツが背中に張り付いている。
「確かに暑いし、立ちっぱなしは辛いわよね」
アリオナの意見に同意しつつ、中座する事は可能だろうかと、レオノアは辺りを見回したが、広間の出入り口で中に入ろうと押し合いへし合いしている人々を見て諦める。
「一度出たら戻ってくるのは無理そうだし、我慢・・・」
そうアリオナに話し掛けた時だった。
広間の中央、恐らく魔方陣が描いてあると思われる辺りに、突如眩い光が溢れ出した。
「アレは、何」
騒然とする場で耳に響いた声が、アリオナのものなのか、それとも自身の声なのか・・・この後に判明する誰もが予想もしなかった状況に、そんな疑問は忘れ去られたのであった。
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