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第4話

 眩い光に目が眩む。もうすぐ地面に直撃し、命を終えると思ったら、無信心なはずなのに神様に祈っていた。 「せめて痛みを感じず、昇天出来ますように」  痛くないように!  命の瀬戸際、最後の最後で願う事がそんなものなのか・・・  生への諦めに反して、僕が僕として生きてきた時を思えば、決して不幸ではなかったけれど、残念な気持ちがわき上がって来る。 「一度でいいから、好きな人に、好きと言ってみたかった・・・」  昨今は、恋人いない歴=年齢も珍しくはないけれど、一度も人を好きになった事がないというのは、珍しい方だろう。  子供の頃は、「唯ちゃんは可愛いから好き!「健君は足が速いから好き!」「玲佳お姉さんは優しいから大好き」等と、好きを連発する方だった。  しかし、成長し思春期を迎えても、異性にも同性にも欲求を覚えた事が無く、自分の好きは恋情ではなく好意でしかないと気付いた。  以来、自分は普通に恋をして、家族を持つ事は出来ないと諦めていたのだけれど・・・・・ 「来世では誰かを好きになれるといいな」  そう呟いた瞬間だった。  ただ眩しいだけだった光が、ソフトボール大ぐらいに凝縮し、くるくる回りながら、放射状に破裂した。まるで花火のように、光の模様が浮かび上がる。  マンホールに落ちたはずなのに、光のショーを間近で体験するとは、これいかに?  目の前に広がるのは、二重になった円。  内側の円と外側の円の間、円環状になった部分には、星、月、太陽や、木、川、大地等のイラストが幾つも描かれている。  内側の円にはアラビア文字のような、記号のような、一見して何処の国の文字かわからないが、文章っぽいものが渦巻き状にびっしりと書かれている。  もちろん意味など理解出来ないし、理解出来たとしても読んでる場合ではない。  光が近付いて来るのか、落ちる自分が近付いているのか解らぬまま、その文字の渦に突入する。 『了解したわぁ❤︎』  オネェっぽい声が頭の中で響いた。 「え、誰? うわっ、ちょっと何これ」  突然、お腹に何かがぶつかってきた。  痛くはないが、その衝撃で体が跳ね返される。  どうやら何かがぶつかって来たのではなく、僕のお腹がボヨンと床にぶつかって、バウンドしているようだ。  そのまま、何度かバウンドを繰り返し、落下は止まった。 「これは、助かったでいいのかな?」  薄目を開けて僕が見た光景は、ある意味予想していた未来だった。  バウンドを繰り返し、仰向けにひっくり返った僕を見つめ、指差しざわめく人々。 「アレがそうなのか、信じられん」 「あのお腹は何が入ってるのかしら」 「嫌だわ、なんて醜い姿かしら」 「男性よね。失敗したって事?」  マンホールにははまらなかったけど、結局「イイね」を貰うんだね~。  なんて、現実逃避している僕に、戸惑いを含んだ声が掛かる。 「大丈夫ですか?お怪我はありませんか、聖女様」 「ハイ?今、何と?」 「いえ、お怪我はないかと、お伺いしたのですが。もしかして言葉が通じませんか?」 「そうかもしれませんね。聖女様と呼ばれた気がしたのですが、聞き間違いですよね」  ちなみに、ここまでの会話、僕は寝転んだ状態である。故に、僕の足元の方から聞こえる声の主の姿は見えないが、男性である事だけは解った。  カツコツと固い床を鳴らし、足音が僕の頭の方に近付いてくる。 「言葉は正しく理解していらっしゃるようで安心しました。ゆっくり起き上がってください、聖女様」  そう言って、膝を付いて僕と視線を合わせてくれたのは、何処の王子様!と内心叫んだ程のイケメンだった。

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