4 / 6
第4話
そっとルーク様の頬に手を添え、顎を少し上げると触れるだけのキスを落とす。初めて触れた唇は柔らかく、もう一度触れたい、深く口づけたいと思う衝動をすんでのところで抑えた。これくらい自制が効かせられなければ、臣下としても友人としても失格だと奥歯を食いしばる。
ルーク様が目を閉じているのをいいことに、顔を離しても、その艶々とした桜色の唇から目が離せなかった。ルーク様は、ゆっくりと目を開けると
「最近、父上が私に閨の指導係をつけたいと言ってきかないのだ。いつでも結婚させられるようにだろうな」
目を伏したまま、暗い声で呟いた。俺は、パッと唇から目を離し、動揺を隠すように返答する。
「……あ〜、、、ルーク様も18歳ですからね」
「……エリックは、どうなのだ?」
「え、と……私は…少しは……という所ですが……」
ルーク様があまり経験がなさそうなので、言い出せなかったが、実は、16歳の頃から閨の実技指導を受けていた。この頃の高位貴族の息子たちは、年頃になると、適当な既婚女性が、夜の指導をしてくれる……ってことがままあった。俺は親父に言われるがままに、パーティーで何度か見たことがあった婦人が筆おろしを済ませてくれたのだった。その後も何度か外で会ったりしたし……。若かったからな、俺。今は、もうその関係は解消しているが……。
しかし、そうか。ルーク様もいよいよ……。第二王子ということもあり、国内の有力貴族の娘や、近隣国の王女あたりとの婚姻を結ぶのかもしれないな。
「父上は、もっと早くからと考えていたようだが、私がゴネまくって今まで引き伸ばしてきた。しかし、もうそろそろ難しくなってきたのだ。そこで頼みがある」
「はい、なんなりと」
「俺の閨の指導係になってほしい」
「……えっ?!」
「いきなりよく知らない女性を相手にするのが気持ちが悪いのだ。その点、エリックならよく知っているし、現に今、キスしたが、不快にならなかったぞ」
冗談かと思って、ルーク様の顔を見つめるが、至って真剣。うーん、確かによく知らない女性に手取り足取り指導されるというのは、今まで人の上に立ってきたルーク様にとっては許しがたいことなのかもしれない。気持ち悪いとまで思うほど……。だが、男と女では基本的な構造が違うような気もするんだが……?
「あ、あの……大変、身に余る光栄なお話なのですが、、、私は男ですよ……?」
「馬鹿にするな。もちろん知っている。大丈夫だ」
星が瞬いているのかと思うほど純真で綺麗な瞳でこちらを見ていらっしゃる。正直、何が大丈夫なんだろうか?と思うけれど、再度、確認するようなことはルーク様を信用していないことと同じになると思って口を噤んだ。
「この役目、引き受けてくれるか?」
「──仰せのままに」
……と言うほかなかった。
その答えに満足したのか、花のような笑みを浮かべ、「早速、続きを教えてほしい」と言われると、俺は何とも居心地の悪い思いになったのだ。先ほど感じた己の欲をこの高貴な方に向けて良いのだろうか。後戻りできなくなりそうな、それでいてこの上なく甘美な誘いに心が震えるのだった。
ともだちにシェアしよう!