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第5話

 閨の指導係という大役を仰せつかってから早一週間。  あの日は、たどたどしい口づけを交わしただけだった。もっとルーク様の傍にいたかったが、体調がすぐれないようだったので、あまり長居するとゆっくり休めないだろうと思って城を後にしたのだった。  その後すぐに学園の試験が始まり、そちらが片付くまではと、どちらからともなく決めた。しかし、ルーク様が話す時、歩く時、笑う時、すべての瞬間に目が離せなくなってしまうようになった。  前々から美しい人だとは思っていたが、王子として感情を表に出さない訓練を受けているため、今まで学園ではほとんど表情に変化はなかった。  かろうじて俺だけが感情の波をキャッチしていたのではないかと思う。  それが最近は、ふんわりと微笑まれることがあるのだ。廊下で微笑むルーク様を偶然見てしまった生徒たちが卒倒してしまったのも仕方がないだろう。  そしてその場に居合わせた俺は、ルーク様はこんなにも周囲を魅了するのかと改めて感じたのだった。  なぜルーク様が微笑んだのか。すべての試験を終え、久しぶりの解放感に浸りながら、帰り支度をすませて廊下を歩いている時、隣を歩くルーク様が密やかな声で「今日の夜、あれをやろう」と俺の耳元で囁いたのだ。俺は、なぜだか心臓がギュッとなり、胸を押さえて立ち止まってしまった。もしかしたらすごくおかしな顔になっていたかもしれない。それを見てルーク様は微笑んだのだよ。  なぜだか俺はルーク様を腕の中に抱きとめて、他の誰にも見せたくなくなった。そんなことできるわけないのに。

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