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第3話

「えっ……」  弾かれたような視線。 (俺が悪い事してしまったみたい)  胸が苦しくなる。 「キスは好きな人とするもので〜」  もごもご、当たり障りのない言い訳だ。 「私が嫌いですか」 「嫌いじゃない!」 「では、好きですか」 「好き……だけど〜」  もごもご。  また当たり障りのない言い訳を考えている。 「申し訳ございません。困らせてしまいましたね」  ふぁさん  シーツの波が揺れて、羽のようにふわりと。  優しい腕が一瞬、俺の肩を包んだ。 「あっ」  すぐ離れた両腕の温もりに、小さく声を上げてしまう。  聞こえていない振りしてくれたのも、彼の優しさだろうか。 「朝食の準備を致しますね。それまでの間、ハーブティーは如何でしょう」 「飲みます!」  気恥ずかしくて、大声で返事してしまった俺。クスリと笑われちゃった。 「そう言って下さると思って、ご用意しておりますよ。お淹れ致します」 「この香り」  俺の反応に、ベッドから下りようとした彼が止まった。 「カモミール!」 「はい。以前、勇者様が好まれていたのを思い出しました」 「あの時は……」  初めてのお茶会。  高級感溢れる香り高い紅茶を淹れてもらって、高級なティーカップに注がれた琥珀色の液体をどうすればいいのか分からなくなって。  ……熱っ。  紅茶が舌に触れた瞬間、味も香りも分からずに、ティーカップを落としてしまった。  床の上、無残に割れたティーカップをどうする事もできずに、ただただ居すくまっていた時。  すぐに、新しいお茶を用意してくれた。  この香り。  あの時と同じだ。  爽やかで、優しくって。  あの時淹れてくれたカモミールティーのお蔭で、気持ちがすぅーっと落ち着いて、その後の魔族と人間との和平会議も、平和条約を締結するまでに至り、滞りなく上手く運ぶことができた。 「いつも助けられてばかりだね」 「違いますよ。勇者様が我々魔族を助けてくれたのです」 「俺は何もしていない。ただ、皆の願いを叶えるための橋渡しになりたかったんだ」  武力では、戦士や騎士にかなわない。  魔力では、賢者や魔法使いにかなわない。  勇者って中途半端なんだ。  だから何もできないなんて言うのは、言い訳だから。  勇者ができる事は、たった一つ。 「勇敢に道を開く事」  蜂蜜色の眼差しが降り注いだ。

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