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第35話

 片や魔軍宰相。  片やアステリア国王。  魔軍最高責任者と、地上の国々を取りまとめる主導者。  国の代表同士がいがみ合っていては、今後の和平に支障を来たす。  非常に困った。 「我が后の願いを無下にする訳にもいかない。君が頭を下げるというなら、過去の遺恨は水に流そう」 「それはこちらの台詞です。経緯を慮るに、あなたの方から頭を下げるべきでは?」  過去の遺恨?  経緯? 「あの〜、二人の間には何かあったんですか」 「何って……」 「私達は、前聖戦を戦っていますので」  俺がこの世界に召喚される前の世代の魔王との戦いを『全聖戦』……そう呼んでいる。  聖騎士団長フレデリック  そして。 「やっぱりオルフェも参戦してたの!」 「魔王様の障壁を排除するのが務めですから」  ……そうだよね。  オルフェは魔軍を統括しているのだから、その行動は当然だ。  俺の傍で力になってくれるオルフェしか知らなかったから、分かってたのに心がずんっと重い。 「今は勇者様、あなたの味方ですよ。ご安心を」 「あっ」  ふわりと降りてきた大きな手。  前髪を撫でた。  不安が顔に出てしまっていたのだろうか。  ちょっと恥ずかしい。でも…… 「ありがとう」 「えぇ」  蜂蜜色の瞳をそっと細めた。

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