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第36話
トクン、トクン
心臓がキュッて悲鳴をあげた。苦しい……けど。痛くなくて、寧ろほろ苦い甘さが胸を柔らかく締め付ける。
オルフェは魔王様の腹心。
いわば俺は仇。
でも俺の傍にいて、俺の味方をしてくれる。
「あなたは魔王様をお救い下さりました……だから、私も」
耳元を声が揺らす。
「あなたのお力添えをしたいのですよ」
嬉しい筈なのに。
「うん……」
まただ。
胸が苦く軋む。
俺が魔王を……討とう決めたのに、できなくて。
結果として、魔王が生まれる前の姿。卵に戻した。
魔王は生きている。
長い長い時間をかけて蘇る。
そうしたら、きっと……
(オルフェは俺から離れていく)
うぅん。それはもっともっと未来の話で、その時、俺はたぶんいない。魔族は人間よりもずっと長寿だというから。
だから、そんな心配をするのがおかしいと思う。
でも。だけど。
考えてしまうんだ。
考えたって仕方のない事なのに。
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