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第37話

「それで納品は予定通りか」 「……納期?」 「なんだ、聞いてなかったのか。勇者博物館に展示する君の武器と防具だよ」  俺がぼーっとしている間に、話題は次へ移っていたらしい。 「勇者の剣、勇者の盾、勇者の鎧は補修が終わり次第、納期には十分間に合います。しかし、勇者の兜は……」  オルフェの言葉に、王様が眉間に皺を寄せた。 「噂には聞いていたが」 「破損がひどく、補修できる状態ではありません」 「仕方がない。レプリカを用意しよう」 「それがよろしいかと」  そうか……  勇者の兜は。  ドワーフ族の住むブドの鍛冶の里。  初めて人間と他種族が手を取って、皆の思いを込めて、作ってもらったあの兜は、魔王の一撃から俺を守って砕けてしまった。  もう、元には戻らないんだね……  勇者の兜が生まれたから、俺は希望を見出だせたんだ。  人間と魔族は、手を取り合えると…… 「では勇者様、参りましょうか」 「えっ、わ!」  伸びてきた腕が肩を抱き寄せた。目を丸くしてオルフェを見つめたのと同時。 「わっ!」  今度は逆方向から伸びてきた腕に引き寄せられる。 「勝手に我が后に触れないでくれるか」 「俺は后じゃ」 「全く幻のクセに強欲ですね」 「幻を飛ばしてでも、后を魔の手から守らねばならないのでね」 「俺は后じゃ」 「なるほど。魔の手とは、いま勇者様の左肩に掛かっている手の事でしょうか」 「失敬な。それは僕の手だよ」

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