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第38話

「人のものに手を出す手を『魔の手』と呼ばずして何と呼ぶのでしょう。それとも私の認識違いでしょうか」 「人のものとは笑止な。君は人ではない。魔族だね」 「あなたこそ、人でありながら魔族よりタチが悪いようですが」 「オルフェ、王様も!」  雲行きが危うい。  嵐の前の予兆だ。  否、嵐は既に起こっている。 「その手をおどけ下さい。確か本日は六魔将会談があった筈。さっさと退散された方がよろしいのでは?遅刻しますよ」  魔王直属にして、司令官の六魔将。  俺が討ち倒したのは、その内の三将だ。彼らもまた、魔王と同様に次の転生の準備をし、今は眠りについている。  残る魔将。  彼らが中立を守ってくれたから、魔王討伐を果たせた。  中立の立場を貫いた三将には会った事がない。もちろん王様もだ。  初対面で遅刻は絶対に許されない。 (あれ?……でも、そうすると) 「オルフェも会談じゃないの?」  「本日は特に予定はありませんよ」 「でも六魔将会談だって」  初対面でドタキャンも、魔将側としても絶対許されない。  まぁ、オルフェと王様は初対面じゃないけど。 「勇者様は何か勘違いをなさっているようですね。私は六魔将ではありませんよ」 「ええッ!でもオルフェの実力は」 「魔軍を統括する者として、実力を有すのは当然です。ですが私が魔軍を統括する意味は、あくまでも軍の暴走を阻止する重しとしての存在。私の立場はあくまでも政のトップ。そして、魔王様の代理です」  オルフェの強大な魔力なら、てっきり六魔将の一人だと思っていたけれど。 「違うの?」 「私は宰相ですよ、勇者様」  魔軍には、オルフェと同格の将があと三人もいたんだ。  オルフェが説得して中立を守ってくれていなければ、魔王の玉座まで辿り着けなかったかも知れない。

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