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第46話
地底に力づくで引きずり込む魔力。
魔王は倒したのに、どうしてこんな事ができるんだ。
「今は詳しく説明している時間がありません。これを……」
オルフェに包まれた手を開くと、鍵がある。
「この部屋の鍵です。地底についたら鍵をしめて下さい」
勇者様……
菫に揺らめく瞳が俺を映している。
「私をこの部屋に置いて、鍵を掛けて下さい」
「それって!?」
オルフェを部屋に閉じ込める?
「しかし館の外に出てはなりません。勇者様に、かつて力はありません。危険を回避するため、何卒ご自重を。助けは必ず来ます」
「俺の事はどうでもいい!」
どうしてオルフェを。
オルフェに……
「そんなひどい事をしたくない!」
俺の気持ちは?
俺だけひとり、助かっても苦しいよ。
「勇者様……」
ふわりと降りてきた声の音色は、胸を締めつけるほどに優しい。
「だから、あなたを守りたくなるのです」
魔力を帯びた菫の瞳が柔らかに揺らめいた。
「あなたを傷つけたくて言っているのではありません。どうか、私を信じて下さいませんか」
瞳の色は強くて、揺るぎなくて、それでいて優しくて……
何も言えなくなってしまう。
でも俺はまだ納得した訳じゃない。モヤモヤしたわだかまりが胸を締めつける。
ほかに方法はないのだろうか。
けれど、その方法を探す時間がないのも事実だ。
グラリと揺れる。
床が沈む。
「勇者様!」
崩れ落ちそうになった体をオルフェが受け止めてくれた。
(この揺れ、今までと違う)
体の奥にドクドク響いてくる。
禍々しい魔力の渦。
オルフェ……
意識を持って入れる。
深く深く沈み込む。
オルフェ……
もう彼の名前も呼べない。息をするだけで、一呼吸、一呼吸、意識が深く沈んでいく。
「この力は魔族でなければ耐えられない。大丈夫、あなたは眠るだけです」
声さえだんだん微睡みに沈んでいく。
やがて、深く静かに、遠くに……
重い瞼はもう開けられない。
「その間は私がお守りします」
瞼の向こう側で、声は囁いた。
「しかし、その後は…………」
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